『わかっていても』最終回が描いた現実的な選択 恋愛ドラマとしていびつだった理由を考察

※本稿には『わかっていても』第10話のネタバレが記載されています。

 『わかっていても』がついに最終回を迎えた。前回、大雨の中で取り返しのきかないような大喧嘩をし、もう修復不可能かと思えたユ・ナビ(ハン・ソヒ)とパク・ジェオン(ソン・ガン)。第10話では、「目の前から消えて」と言ったナビの前に、再びジェオンが現れる。しかし自分の姿を見てすぐにその場を立ち去ろうとする彼女の手を掴むも、振り解かれてしまうジェオン。徹底的なナビの拒絶の姿勢がうかがえたと思いきや、早い話、この二人は結局くっついてハッピーエンドになる。この展開が、本シリーズを従来の恋愛韓国ドラマとしては異質で、若者の恋愛事情という視点ではある意味現実的で、納得のいくものに印象づけた。

 二人の男女のラブストーリーとして捉えた時、この話はあまりにもいびつだ。恋愛はしたいけれど、セックスもしたいけれど、彼女は欲しくない。ナビにちょっかいを出し始めても、彼女の家の目の前で他の女の子とキスをするなど、同時に複数の女性関係が進行していたと見受けられるジェオン。それでも、ナビのことはどうやら本当に好きのようで、その好きの方向性を見誤り嫉妬を募らせたり、自分自身の思い通りにいかなくてキツい言葉を投げかけたりした。しかし、最終話でジェオンは彼女に対してすぐに「ごめん」とも言わず、彼女に向ける本心を語ることもない。そんな彼のことを、別れを切り出した側のナビの方がずっと気になって考え込むシーンが最終回では多く描かれたのが印象的だった。

 一方、ジェオンは飼っていた蝶を解き放ち、自由にさせる。これは現在の、それかこれまでの女性関係の精算の暗喩のように思える。そして“なぜか”破壊されてしまったナビの展示会に向けた作品の修復を「完成したら二度と君の前に現れない」ことを条件に手伝うとことに。その親切心を感じながらも、もう以前のような思わせぶりな態度を取らない彼に戸惑うナビ。作品が完成しても「頑張れよ、それと……」と、何か彼女に伝えようとする素振りを見せたのにジェオンは結局何も伝えずに彼女の前から姿を消した。これで逆にナビはもっと彼のことが気になってしまうわけだが、従来の韓国ドラマではそこからジェオンの謝罪、ジェオンの恋愛に対する姿勢がなぜそうなってしまったのか、トラウマやきっかけはあるのか、そこにあのユン・ソラは関係するのか……など、要するに全ての出来事やキャラクターの心情を理解させるための背景を描き伏線を回収していく“説明”がある。しかし、『わかっていても』にはそれが一切ない。それが、これまでのドラマに対する本作のいびつさなのだ。そして何も解決せずに、前半で退場したジェオンが戻ってきて二人が結ばれたのはラスト8分での出来事。言ってしまえば、あまりにも駆け足かつ説明不足な展開だった。

 しかも、この最後の8分間での対面シーンでも結局ジェオンははっきりと物を言わず受け身で、ナビが気持ちを伝えて歩み寄る形となる。興味深いことに、ドラマ全体を通してほぼ全ての思考や決定権をナビに委ね、任せきりだったジェオンは最終回に至っても変わらなかったのだ。最終回直前に執筆したコラム(参考:恋愛ドラマとしてアップデートされた『わかっていても』 最終回直前、衝撃的な展開に)でも書いたが、やはり本作は簡単に人が変わらないという現実を甘やかすことなく、ビターに描いている。全部ナビ(女性)側が全ての物事を解決しなければいけないような描写に若干ひっかかる部分もある。「本当にそれでいいのか、ナビよ」と思ってしまうが、それでもナビはそれでいいのだと思う。そこに、本質の真実が隠されている気がする。

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