『花束みたいな恋をした』とも重なる『恋の病』 主人公から学ぶ他者との向き合い方

 油断していたら、がつんと頭を殴られたような衝撃を受けた。

 8月20日より公開された台湾映画『恋の病 ~潔癖なふたりのビフォーアフター~』。本作は運命の出会いを果たした“超潔癖症”カップル、ボーチン(リン・ボーホン)とジン(ニッキー・シエ)が繰り広げるラブストーリーだ。

 ポスターには外出するために防護服を着て、手袋とマスクをした2人の姿が。色鮮やかでポップなデザインと、背景となっているスーパーに似つかわしくないボーチンとジンの服装からは、ちょっと変わった男女の恋をコミカルに描いたストーリーを想像する。でも騙されてはいけない。いや、前半はまったくイメージ通りなのだが。

 毎日同じ時間に起床し、徹底的なベットメイキング、歯磨き、掃除と、まるで哲学者カントのように規則正しいルーティンをこなすボーチン。台湾在住の彼は強い不快感や不安を打ち消すため、自分の意思とは反して特定の行為を繰り返してしまうOCD(強迫性障害)を抱えており、何度も手や身体を洗うことがやめられない。

 ただ本作は障害をシリアスには描いておらず、一般的な社会生活が送れずとも彼は翻訳家として家で仕事をし、毎月15日だけスーパーに出かけるなど工夫を凝らして生活を営んでいる。そんな彼の世界に彗星の如く現れたのが、同じ完全武装で同じ電車に乗り合わせたジンだ。彼女も極度の潔癖症で、4時間以上外にいると肌に発疹が出るアレルギー持ち。さらには、神の命令に従うかのようにスーパーで万引きを繰り返す窃盗癖も持ち合わせていた。

 ちょっと危険な香りのする女性だったが、自身との共通点にボーチンは惹かれていく。やがて恋人同士になった2人は同棲をはじめ、生活の大半を2人で過ごすことに。“ひとりぼっち”が“ふたりぼっち”になっただけだが、2人で掃除や仕事をすれば時間を半分に節約でき、余った時間で1人ではできなかったチャレンジに挑むことができる。

 わざと非衛生的な場所に赴いて耐性をつけたり、念入りに口を磨き“菌の交換”としか思っていなかったキスをしてみたり……まさに「2人一緒なら最強」の状態。はたから見れば滑稽なカップルだが、コミカルでキュートなボーチン&ジンカップルに少しずつ愛着が湧いてくる。そんな矢先、ボーチンの潔癖症が消えてしまうのだ。

 気になっていたのは画角。リャオ・ミンイー監督はこの映画を全編iPhoneで撮影しているのだが、前半部分は2014年に公開された『Mommy/マミー』と同じように1:1の画面アスペクト比が使われている。それはまるで2人だけの世界を演出するかのように。だが、途中から一般的なフルスクリーンに変わり、同時にボーチン“だけ”の世界が広がったことを告げる。

 そこからの展開は本当に胸が痛い。少しずつ変わっていくボーチンと、それを素直に受け入れられず戸惑いを隠せないジン。本作は「恋は盲目」をテーマのひとつに、「恋の約束と固執」を描いたというが、どこか今年日本で大ヒットした『花束みたいな恋をした』に共通する部分がある。

 『花束みたいな恋をした』に登場するサブカルチャーをこよなく愛するカップルは“趣味”を通じて強く惹かれあっていくが、共有するものが違うだけで本作の2人と同じ。どちらも最初は互いの容姿や人間性じゃなく、「この人は私と同じ」と思わせてくれる特定の、ある意味“自分にとって都合がいい”ところに恋をした。だけど悲しいかな、人は出会う人や場所やもので簡単に変わってしまう。そして、それを誰も引き止めたり、咎めたりすることはできない。

関連記事