エミー賞にみる、海外ドラマ乱立の難しさ ピークTV時代の新たな局面へ

 パンデミックとなり早1年、混乱が続く中でも各動画配信サービス中心に多数の新作海外テレビシリーズが発表され続けている。日本では、HBO作品がAmazon Prime VideoからU-NEXTへ移籍、Disney+も(諸問題は色々あれど)ついにMCUドラマの配信を開始した。アメリカでも先日エミー賞が発表され、ピークTV時代の新たな局面に入ってきているように感じる。

批評家も追いつけないほどの作品群

 今年のエミー賞発表時にIndiewireでは、ノミネート作品の傾向として「ピークTV時代では、全ての作品を観ることは不可能であるため(今回の選出が)ベストかどうかはわからない。エミー賞の投票者たちに一番視聴され一番好かれた作品であるということはわかる」と分析している(参照:2021 Emmy Nominations: Netflix and HBO Lead a Field of Surprises|IndieWire)。膨大な作品が製作されるからこそ、枠が決まっているエミー賞に良作ながら選ばれなかった作品があることは理解できるが、果たしてそれは批評家も観たうえで選ばれなかったのか単純に観れていないのか……。

『ザ・クラウン シーズン4』Netflixにて独占配信中

 いずれにしてもノミネート作品を見てみると『ザ・ボーイズ』『ザ・クラウン』『ブリジャートン家』などNetflixやAmazon Prime Videoなど各種サービス内で高視聴数を記録した勢ぞろいしている。映画と異なり、1作品観終わるのに十数時間かかることを考えると、多く観られた作品=一番好かれた作品というのもわからなくもない。いずれにしても質の高い作品が乱立しているからこそ、かつてあったような『ゲーム・オブ・スローンズ』一強みたいなことは今後起こらないのだろう。

話題作の形が変わって来ている

 そんな、アメリカの大きな流れがある中で、日本でも前述の通り動画配信サービスが増え、配信されている作品群も増え、つい数年前までの「日本で配信開始されるだけでラッキー」という状況はかなり改善されてきている。ファンからすれば、Disney+はいつになったら4K配信するのかとか、FXドラマはなかなか上陸しないとか、Netflixジャパンは海外ドラマをあまり宣伝していないなど諸問題はまだまだあるが、それでも本当に選択肢は増えた。これはとても喜ばしいことだ。

 一方で、配信作品が多いからこそ、未だに海外ドラマの代名詞的に言われる『セックス・アンド・ザ・シティ』のように、あまり海外ドラマを観ない層にもわかるレベルで浸透するような作品は生まれにくくなっているようにも感じる。そろそろ『セックス・アンド・ザ・シティ』から別の海外ドラマへ代名詞が移ってほしいものだが、そもそも皆である特定の作品を楽しむという時代は終わったのかもしれないとも感じる。それは配信作品が増えていることだけではなく、加入している動画配信サービスの数も影響するように思う。筋金入りの海外ドラマファンでもない限り、加入する動画配信サービスはせいぜい1か2サービス程度。あくまで視聴範囲は自身の加入サービス内に留まるからこそ、どのサービスに入っているかで“視聴者にとっての”トレンドは全く異なるはずだからだ。当たり前の話だが、Netflix加入者の話題作は、Amazon Prime Video加入者にとってのそれではない。そう考えても、“共通言語”としての海外ドラマ人気作は今後生まれにくいのかもしれない。

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