ラウールが“超人”役で名言/迷言を連発 『ハニーレモンソーダ』に詰まった幸福な瞬間

 高校生男女の恋模様が、シュワシュワと綴られている『ハニーレモンソーダ』(以下、『ハニレモ』)。どれくらいシュワシュワしているかというと、劇中に登場する、ご存知「キリンレモン」のフタが開けられたとたん、甘酸っぱい炭酸水が吹きこぼれてしまいそうなほどである。本作で描かれる恋模様では、つねに吹きこぼれそうなくらいに男女の感情がシェイクされているのだ。

 自分に自信がない引っ込み思案な女の子と、学校イチの人気者である男の子の恋物語といえば、少女マンガを原作とした映画の王道だろう。本作もひと組の男女の関係が「恋愛」に発展するのかどうかが描かれ、やがてそれが成就してからどのような発展のしかたをしていくのかを、とてもヤキモキしながら私たちは見守らなければならないこととなる。本作のヒロイン・石森羽花(吉川愛)は、中学時代からいじめを受けており、“新しい自分”になるために自由な校風の八美津高校に入学した。とはいうものの、うまく自分を出せずにいる。そんな彼女の前に現れた、ひとりの男子・三浦界(ラウール)。羽花は界と出会い、交流していくうちに、自身の世界が拓けていく/変化していくのを感じるのだーーやはりこの物語、王道である。

 界はレモン色の髪をした少年だが、不良ではない。これが、彼らの通う八美津高校がいかに自由なものであるかを物語っているだろう。そんな個性の解放が許された環境のなかであっても、羽花は自分を出していくのが難しい。クラスメイトに「おはよう」とあいさつをすることにさえ練習を要する彼女は、よくぞこの高校を選んだものである。というのも、この羽花と界の関係は、じつは中学時代にまでさかのぼる。ふたりはひょんなことで出会い、心密かに八美津高校へのあこがれを募らせていた羽花の背を、互いに名前も知らない間柄ながら界が押していたのだ。

 そんな羽花は、中学時代に周囲から「石」とのあだ名で呼ばれてきた。ヒドイ。これが高校生になっても尾を引いていて、なかなか柔軟にクラスに、ひいては八美津高校に、溶け込むことができないでいる。たしかに表情も挙動もすべてがぎこちなく、まさに“石”のようだ。しかし界は彼女に対し、「石でも、お前は宝石なんだよ」と歯の浮くような言葉を贈る。観ているこちらが少々気恥ずかしい。界はこんなセリフのみならず、「おれね、空飛べるんだ」「もうお前、おれの心に入ってくんな」などの名言/迷言を連発。しかし笑ってはいけない。羽花が界のことを「三浦くんは三浦くんのルールで生きている」と評するように、彼は彼の世界のなかで生きている。つまり界は、ちっぽけな“常識”などというものを超越しているのである。

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