スティーヴン・スピルバーグとNetflixの契約が衝撃の理由 配信サービスを巡る未来とは

 映画監督のスティーヴン・スピルバーグ、厳密に言うと彼の設立した製作会社アンブリン・エンターテインメントがNetflixとパートナーシップを組み、業界を震撼させたことは記憶に新しいだろう。なぜこの知らせに多くの人が驚いたかといえば、以前からスピルバーグがNetflixに対して批判的な姿勢を見せていたからである。そもそも、何が彼にとって問題で(というより果たして本当に彼は批判していたのか)、そして今回の契約が結ばれるきっかけは何だったのか、それが意味する映画業界の未来について少し考えたい。

 ことの発端は2019年の第91回アカデミー賞。オスカー常連のアルフォンソ・キュアロン監督によるNetflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』が作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞など合計10部門と最多ノミネートを果たし、監督賞、外国語映画賞、撮影賞を受賞した。ただ、これに対してスピルバーグは「ストリーミング作品はテレビ映画と同じ。アカデミー賞ではなく、エミー賞で取り上げるべき」という趣旨の主張をしている。この背景には、彼の“映画は映画館で”という思想が反映されていて、IndieWireが報道した記事(参照:It's Spielberg vs. Netflix as the Post-Oscar Academy Wars Continue | IndieWire)では、アカデミー監督部門の理事を務めるスピルバーグが4月の理事会でノミネート条件の変更を提案し、指示を募るような意思を持っていることが明らかになった。この時、アンブリンの広報は「スティーヴンはストリーミングと劇場公開の状況の違いを強く感じています。彼はアカデミー理事会で他のメンバーが彼の意見に支持してくれることを願っています」と代弁していた。

『ROMA/ローマ』独占配信中

 同記事では、さらに詳しく以下のようにNetflixに対する批判が箇条書きで挙げられている。

・Netflixが費用を使い過ぎていること。
・『ROMA/ローマ』の強すぎるプッシュに他の外国語作品のリリースが遅れたこと
・本作の劇場公開が3週間限定だったこと
・Netflixが興収を公開しないこと。
・Netflixが90日間のシアトリカル・ウィンドウを尊重しないこと。
・Netflixの作品が(他の劇場公開作品と違って)24時間、190カ国で見られること。

 とはいえ、興行収入のインパクトがオスカー像を左右することもなければ、『ROMA/ローマ』は13週間も公開している地域もあった。アカデミーの知事は「もう少し明確な“基準”を設けるべき」とコメントしている。

 しかし。その後、ドリームワークスに籍を置く映画プロデューサーのジェフリー・カッツェンバーグは、「スピルバーグが実際Netflixに関することは何も発言していない」と主張。上記のIndieWireの記事を、「スピルバーグがNetflix作品のオスカー受賞に反対という“噂を耳にして”、アンブリン・エンターテインメントの声明としてこじつけた」と発言。それでもスピルバーグが2018年のイギリスのITVでのインタビュー取材で「エミー賞であるべき」に始まる冒頭の表明を語ったのは確か。まるで「言った」「言ってない」でお互いに指差し合っている子供たちの論争を見ているかのようだ。

 そんな二人の突然の和解。クラスのお友達は、水と油のような二人のクラスリーダーがタッグを組んだことに驚きを隠せない、というのがハリウッドの現状といったところ。その仲直りのきっかけは、パンデミックだった。

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