妻夫木聡のアジア人気の理由を探る 『唐人街探偵 TOKYO MISSION』でさらなる世界進出?

 7月9日から公開中の中国映画『唐人街探偵 東京MISSION』が注目を集めている。2015年に1作目が中国をはじめとする各国で公開された人気シリーズの3作目である本作は、1作目、2作目ともに日本劇場未公開であるにもかかわらず、突然3作目が日本でも劇場公開されることになった。その理由は本作の舞台が東京であり、多数の日本人キャストが出演しているからにほかならない。長澤まさみや三浦友和、鈴木保奈美、浅野忠信、染谷将太など、日本国内でも彼らが揃って出演するとなれば、“豪華キャスト”と銘打たれても不思議でない顔ぶれだ。そのなかでも今回は、シリーズの前作にも出演し、今回は主役となる野田昊を演じる妻夫木聡のアジアでの活動と、その人気について考えてみたい。妻夫木はこれまで、アジアでどんな活躍を見せてきたのだろうか。

映画『唐人街探偵 東京MISSION』日本版予告60秒

アジアでの人気は初期出演作のヒットから

 妻夫木の初期の出演作といえば、2001年に日本公開された矢口史靖監督による『ウォーターボーイズ』を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。同作はアジアでもヒットしている。『ウォーターボーイズ』は日本公開から約1年後に韓国でも公開され、大きな注目を集めた。当時の韓国では日本映画のテレビ宣伝が規制されていたが、街中のビルボードで大きく宣伝され、日本公開時よりも大きな規模で公開された。試写会には3,000人が詰めかけるなど、大成功を収めたのだ。

 2014年にはタイ・アカデミー賞で4冠を制した『タン・ウォン 願掛けのダンス』を手掛けたコンデート・ジャトゥランラッサミー監督が第27回東京国際映画祭で来日し、同作の製作において『ウォーターボーイズ』を参考にしたと明かしている。それほどアジアでは『ウォーターボーイズ』はよく知られた作品であることがわかる。中国でもリメイク版が製作されることが明らかになり、2020年に撮影が始まったという。中国では『ウォーターボーイズ』は劇場公開されていないが、海賊版などなんらかのルートで多くの観客が鑑賞し、日本映画のファンだけでなく、一般の観客にも知られる作品になっているようだ。この作品のヒットで、妻夫木聡がアジアでの知名度を上げたのはほぼ間違いないだろう。

 2003年に日本で公開された『ジョゼと虎と魚たち』も、アジアで人気の高い作品。2004年に韓国で公開された際には、公開1週目のスクリーン数が5ヶ所と非常に小規模の上映館数だった。にもかかわらず観客たちの間で爆発的な人気となり、10週間のロングラン、総累計動員数4万人という記録を達成。2005年と2016年にも再上映され、2020年には韓国版リメイクが公開されるなど、その人気ぶりには目を見張るものがある。

ハリウッドも注目したアジアでの人気

 彼のアジアでの人気に、ハリウッドが目をつけないわけがない。妻夫木は2006年、世界でも根強いファンを持つカーアクションシリーズの3作目『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』にカメオ出演した。当時日本でも話題になったことを記憶している人も多いだろう。ストリートレースのスターターという、ほんの小さな役ではあったが、それでも彼を目当てに劇場に足を運んだ観客もいるかもしれない。

 こうして着実にアジアで知名度を上げていった妻夫木だが、その人気が如実に現れたのは『どろろ』(2007年)の公開前に香港のワールド・トレード・センターで行われたキックオフイベントだ。同作のアクション監督であるチン・シウトンが香港出身だったため開催されたこのイベントだが、蓋を開けてみれば、妻夫木をはじめとするキャストのファンが約1,000人詰めかける大盛況。手塚治虫の漫画を原作とした『どろろ』は、アジアだけでなくヨーロッパやアメリカを含む世界24カ国で公開され、アジア発の本格アクション大作として世界の注目を集めた。

 『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』と同じく彼の人気に目をつけたと思われるのが、2015年の台湾映画『黒衣の刺客』だ。第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、監督賞を受賞した同作に、妻夫木は小さいながらも重要な役で出演している。彼が演じたのは“鏡磨きの青年”というちゃんとした名前すらなく、セリフもない役だが、主人公を助ける役回りだ。日本ではディレクターズカット版が公開され、インターナショナル版ではカットされていた忽那汐里との共演シーンも含まれている。この小さな役に妻夫木をキャスティングしたのは、日本を含めアジアの巨大なマーケットを意識したものだろう。

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