『閃光のハサウェイ』に刻まれたシリーズの魅力 正義の味方ではない主人公に託されたもの

 一方で、今作の複雑さを増しているのは、ホテルに宿泊している政府高官の命を狙う事件を起こしたマフティー・ナビーユ・エリンという人物の正体が、他ならぬ主人公のハサウェイ・ノアであるという点だ。連邦の大佐であり、多くの戦争で英雄的活躍を果たしたブライト・ノアの息子が、地球連邦に敵意を向けるテロリストのマフティーであるという点にも注目したい。

 マフティーは思慮深くスマートな印象があると語られているが、ハサウェイからもその印象を受ける人は多いだろう。一方で、舞台挨拶でハサウェイ役の小野賢章が「彼にはカッとなってしまう短絡的な一面がある」と語っている。この一面は作中でも何度も現れており、最初のテロリスト鎮圧の場面でも短絡的に飛び出し、危うく命を失いかけたり、あるいは市街戦の際にも、計画通りの行動を行わず、突発的にヒロインのギギと共に逃げ回るという場面が描かれている。

 このハサウェイの短絡性と思慮深さの両面性というのが、この作品の見どころの1つだ。ハサウェイという一面と、マフティーとしての一面、その両方をもちながらも、どちらか一方に偏ることはない。マフティーの思想に感銘を受ける人々もいれば、「彼は暇なんだよ。一般市民には明日を考える暇はない」と語る人もいる。彼の行動はいくらでも金額を引き出せる利便性の高いカードに代表されるように、一方的な強者である連邦やシステムを倒し、変革することにある。しかし、だからといって弱者が熱烈に支持する正義の味方でもない。

 この両面性はケネス大佐とギギによって、さらに強調されていく。 本作の中ではギギがまだ言動が幼いながらも、時折鋭いことを放つ少女(子供)であり、ケネスがすでに成熟した大人の男であることを強調している。冒頭においてギギが「子供の論理って正しいこともありますよ?」と話すと、ケネスは「世の中、そんなに簡単に動いていない」と返す。また客室乗務員であるメイス・フラゥワーをケネスが口説く会話の中では、自らがすでに子供の頃とは違い、歳を重ねた大人であることを繰り返し強調しているのだ。

 その間に挟まれたハサウェイは、その子供じみた純粋な理想を抱えながらも、大人のような思慮深さも兼ね備えている面も併せて描かれている。その揺れ動く両面性にこそ魅力が宿る。

 思えば、それが最も人間らしい描写とも言えるのではないだろうか。例え相対する組織のどちらかに属していても、100%その思想に染まっているということは少ない。時には揺れ動きながらも、自分の立場を選び進んでいくものではないだろうか。

 テロリズムは現代の価値観では決して許されるものではない。しかし、その行動でしか変えられないものがあると信じるハサウェイの葛藤とドラマこそが、富野由悠季が描いてきた戦争と人間のドラマとも通じるものがあり、今作はそれを余すことなく宿している。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。Twitter

■公開情報
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』
全国公開中
原作:富野由悠季、矢立肇
監督:村瀬修功
脚本:むとうやすゆき
キャラクターデザイン:pablo uchida、恩田尚之、工原しげき
メカニカルデザイン:カトキハジメ、山根公利、中谷誠一、玄馬宣彦
総作画監督:恩田尚之
音楽:澤野弘之
声の出演:小野賢章、上田麗奈、諏訪部順一、斉藤壮馬、津田健次郎ほか
(c)創通・サンライズ
公式サイト:http://gundam-hathaway.net/
公式Twitter:https://twitter.com/gundam_hathaway

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