NHK「よるドラ」はテレビドラマに何をもたらすか 尾崎裕和Pに聞くこれまでの歩み

「よるドラ」が果たす役割

――2021年4月から始まった『きれいのくに』から「よるドラ」の放送時間が月曜夜に移りましたが、変化したことはありますか?

尾崎:編成の戦略としては、より浅い時間にすることで多くの人に見てもらえるんじゃないかと考えての判断ですね。土曜日はNHKのドラマ枠が多いので月曜日の夜に振った方が、新たな可能性があるのではないかという判断もあります。

――『腐女子』は描き方を間違えると多くの人を傷つけてしまう難しい題材だったと思うのですが、映像表現として気をつけたことはありますか? 

尾崎:『ここは今から倫理です。』はそこにすごく気をつけて作ったのですが、『腐女子』の時は「どうすれば正しいのか?」と模索しながら作っていて制作者の間でも意見が分かれることがありました。原作から変えたタイトルも賛否両論で、手探りだったことが現れているような気がします。今だったらこういうタイトルをつけづらいのではないかとも思いますし、やっていく中でわかっていったことが多かったですね。

――テレビドラマの性描写は年々規制が厳しくなっていると思うのですが「よるドラ」ではしっかりと描いていて、同時に倫理的な問題も避けていないですよね。そのあたりのバランスは難しかったと思うのですが……。

尾崎:同じ「よるドラ」の作品でも、NHK本体で作られたものもあれば部外の制作会社で作られたものもあり、番組ごとにスタンスは違うのですが、セックスや暴力を描写するときは尻込みせずに、きちんと描こうと、私は思っています。どちらかというと、別のことの方が危なくて、仮に炎上が起きるとしたら、もっと別のことではないかとも思います。

――SFやファンタジーが多いのも特徴ですよね。はじまりが『ゾンみつ』だったこともありますが「よるドラ」じゃないと作れなかった作品がたくさんあると思います。

尾崎:去年から編集長的な立場でよるドラの企画を見ているのですが「土曜ドラマやドラマ10では駄目だったけど、「よるドラ」ならイケるんじゃないか?」と言われることは増えてますね。

――「よるドラ」で作りたい人が増えているということですね。

尾崎:演劇関係者からも認知され、「よるドラ」なら書きたいと言われる機会も増えています。基本的に若い世代の企画を選ぼうと考えているので、若手が連続ドラマを作るのであれば、「よるドラ」が一番近道じゃないかと思います。

――たとえば、80~90年代のフジテレビの深夜ドラマ枠は若手育成の場になっていて、そこから三谷幸喜さんが頭角を現し、やがてプライムタイムのドラマを書くといった流れもありました。「よるドラ」には、そういう場所になってほしいんですよね。

尾崎:それは「是非」という感じですね。それこそ『ゾンみつ』の櫻井智也さんや『腐女子』の三浦直之さんも、連ドラを全話書いてもらうのは初めてだったので、今まで連ドラを書いたことがない方が「よるドラ」をきっかけにステップアップしてほしいと言う気持ちはすごくあります。

――「よるドラ」で頭角を現した脚本家やディレクターが、朝ドラや大河といったNHKの別のドラマ枠で、影響を与えてくれたら嬉しいです。

尾崎:朝ドラや大河ドラマはまだですが、三浦さんが『東日本大震災10年 特集ドラマ あなたのそばで明日が笑う』を書くといった流れも生まれつつありますので、そうやって「つなげていければいいな」と思います。

――今後、尾崎さんが「よるドラ」でやりたい企画はありますか?

尾崎:実は「よるドラ」でしかできない時代劇を作りたいと思ったこともあるんですよ。ただ『ゾンみつ』の時は30代ギリギリだったので若手の顔をしていたのですが、今は40代で管理職になってしまったので、あまり自主的に企画を出すことはやってなくて、若手の企画をすくい上げることに専念しています。

――最後に、今後の「よるドラ」について教えてください。

尾崎:2022年の1月クールまでの予定は決まっています。「よるドラ」でしかできない作品を準備しているので、期待してお待ちください。

■放送情報
よるドラ『いいね!光源氏くん し~ずん2』
NHK総合にて、毎週月曜22:45〜放送【全4回】
出演:千葉雄大、伊藤沙莉、桐山漣、入山杏奈、神尾楓珠、小手伸也ほか
原作:えすとえむ
脚本:あべ美佳
音楽:小畑貴裕
演出:小中和哉、田中諭
制作統括:樋口俊一(NHK)、竹内敬明(テイク・ファイブ)、管原浩(NHK)
写真提供=NHK

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