『コタローは1人暮らし』優しい願いが込められた最終回 横山裕が演じ抜いた狩野進の強さ

 『とのさまん』の最終回を狩野とともに見届けたコタローは、テレビに映るストリートピアノのアーカイブ映像に釘付けになる。そこには、コタローの両親が映っていた。母上は愛おしそうに大きなお腹を撫で、父上(滝藤賢一)はその姿を見つめながら、優しくメロディを奏でる。

 どこかで歯車が狂いバラバラになってしまった家族だけれど、こんなにもあたたかな時間が確かにそこにあったことが記録されていた。幸せそうなコタローの両親を見つめながら「おまえはちゃんと愛されて生まれてきたんだ」と、狩野は初めてコタローを名前で、両親が授けた最初の贈りもので呼んだ。

 母上がコタローを呼ぶ。ピアノに向かうコタローを真ん中に、父上と母上が笑っているーーコタローがひととき夢みた幸せな時間は、叶うことはない。

 「ちゃんと、生きていって」。あの日、母上がコタローに言い残した言葉は、また会うための約束のように思えた。なぜ母上は約束を守れなかったのか、その理由は描かれなかったが、いつかコタローの前に現実が立ちはだかる。もしもあの頃の母上のように、生まれてきた理由が分からなくなる日が訪れたら、狩野に訊ねてほしい。きっと、今日のことを話してくれるから。愛されて生まれてきたんだと知った日を、狩野となら分かち合うことができるから。

 懐かしい、優しい父上の顔を見て思い出したのだろうか、『とのさまん』が好きなのは、父上の声に似ているからだとコタローは気付く。「そっか」とだけ言う狩野の声が、あまりにも優しかった。

 コタローは新しい一歩を踏み出し、少しずつ強くなってゆく。父上には、手紙で思いを伝えた。いつかなんでもできる強き人間になってから会いたい、そして、わらわのことを好きになってほしい、と。さらには貯金も始めた。できるだけ大きいお城のような家を建て、父上と母上、狩野やみんなと暮らすという夢のために。それは、最終話までコタローを見守ってきた視聴者の夢でもある。嬉しさを隠しきれない狩野に対し、コタローはちょっぴり塩対応。けれどこれが、ちょうどいい2人の関係だ。

 ペンキの匂い、眩しい水色、みんなで見上げた新生「アパートの清水」の看板ーー何気ない今日をコタローが忘れても、狩野が、みんながコタローの成長を覚えている。人生は楽しいことばかりではないが、いつか悲しいことや苦しいことに出会ったとき、ここでみんなと過ごした1日1日の記憶ーー生きてきた証が、コタローの支えになればいい。

 「そうしてみんないつまでも、仲良く幸せに暮らしました。めでたしめでたし」。この優しい世界がずっと続いていくように、寂しいけれど願いを込めて、この言葉でしめくくる。コタローのこと、コタローが教えてくれたことーー私たちも、ずっと忘れない。

■新 亜希子
アラサー&未経験でライターに転身した元医療従事者。音楽・映画メディアを中心に、インタビュー記事・コラムを執筆。Twitter

■放送情報
『コタローは1人暮らし』
テレビ朝日系にて、毎週土曜23:30~0:00放送
出演:横山裕、川原瑛都、山本舞香、西畑大吾(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、百田夏菜子(ももいろクローバーZ)、生瀬勝久、光石研、峯村リエ、大倉孝二、イッセー尾形、出口夏希
原作:津村マミ『コタローは1人暮らし』(小学館)(『ビッグコミックスペリオール』で連載中)
脚本:衛藤凛
音楽:篠田大介
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:都築歩(テレビ朝日)、尾花典子(ジェイ・ストーム)、松野千鶴子(アズバーズ)、岡美鶴(アズバーズ)
監督:松本佳奈 ほか
制作協力:アズバーズ
制作著作:テレビ朝日、ジェイ・ストーム
(c)津村マミ/小学館(『ビッグコミックスペリオール』連載中) (c)テレビ朝日

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