『グーニーズ』が転換期となったジュブナイル映画の系譜 なぜ子供の物語にホラーが多い?

 最近地上波放送されたことでも記憶に新しい、『スタンド・バイ・ミー』と『グーニーズ』。どちらも10代の少年少女を描いた物語……ジュブナイル映画の金字塔である。また、どちらも1986年、1985年と1980年代の作品であり、後の『IT/イット』(『スタンド・バイ・ミー』と同じスティーヴン・キング原作だから当たり前ではあるが)や『SUPER8/スーパーエイト』、近年だと『サマー・オブ・84』や『スケアリーストーリーズ 怖い本』などにも大きな影響を与えている。しかし、挙げた作品も含め近年のものの多くが、ホラーやサスペンスといったジャンル。なぜ、ティーンエイジャーの青春を切り取ったはずの物語で、彼らはいつも危機に瀕しているのか。

『サマー・オブ・84』(c)2017 Gunpowder & Sky, LLC

 ジュブナイル映画が実は暗いということは今に始まったことではない。その根幹にある問題は遡ること50年代、ルイス・ブニュエル監督が世に放った『忘れられた人々』やフランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』で描かれている。『忘れられた人々』はメキシコを舞台に、街角で金銭を稼ぐ社会的弱者の大人を襲う非行青年のハイボが結果的に2人の少年を殺す。感化院から脱走した彼の、そこに入る原因の密告をしたと思われるフリアンへの復讐だ。非行から足を洗い真面目に働くフリアンを、彼の親友ペドロを使って壮絶な暴行を加えるハイボ。結果フリアンは死に、本当はそんなつもりではなかったペドロが罪悪感に苛まれ、それに気づいたハイボが今度は彼も手にかけるという物語だ。このハイボの底無しの暴力性の原因となっているのは、母親からの愛情の欠落、そして親からも学校からも子供が見放されていたという社会の構図にある。『大人は判ってくれない』の主人公、ドワネル少年もまた学校での居場所はなく、家に帰っても喧嘩ばかりする両親、浮気をしているのに自分の顔を見る度に怒ってくる母親のせいで毎日が浮かない。大人たちが自分の精神のセーフネットにならないため、彼は父のタイプライターを盗むという非行に走り、親に警察に連れて行かれ鑑別所(感化院のようなもの)に送られてしまう。もう、逃げ場はない。

 ジュブナイル作品の多くがサスペンス色の濃いものである理由も、そこに少年少女の非行が関わっているからであり、背景には常に大人の無関心さがある。自分たちの話も聞かないし、信用さえしない親と同じように見捨てる社会。少年少女たちの非行は、彼らに対する“反抗”だ。そしてこの“反抗”を描く際、セットで描かれることが多いのが“擬似家族”である。同じ50年代の映画『理由なき反抗』がいい例で、10代の不良を取り締まるジュブナイル課で知り合った主人公のジムとヒロインのジュディ、そしてプレイトウの3人はのちに空き家に集まる。内見ごっこをする彼らは「子供なんてうるさいだけ」「声の聞こえない部屋に置いておこう」と言ったようにふざけるが、それらは全て大人に対する皮肉だ。そして、ジムとジュディが両親、プレイトウがその子供という関係性になる。その流れは80年代のフランシス・フォード・コッポラの『アウトサイダー』にも見て取れる。貧困層の若者と富裕層の若者が対立するなか、前者のグループ「グリース」の青年たちのドラマを描く本作。『忘れられた人々』にもあったが、貧困もひとつ青年たちが非行に走る要因にあるし、主人公ポニーボーイが両親を早くになくし、上の兄2人が彼の両親代わりをしていること、青年グループの存在そのものが擬似家族として機能しているのだ。ポニーボーイと仲の良いジョニーも、両親が不仲で家に居場所がない。“大人の不在”は両親に限らず、青年グループの襲撃を止めない警察にも通ずる。映画のラストでは、これまで彼らを放っておいた警察が誤った介入の仕方をすることで、悲劇を迎えるのであった。

『スタンド・バイ・ミー』(c)1986 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

 こんなふうに、印象的なジュブナイル映画の多くは青春ものにも関わらず犯罪や死がまとわりついていて暗かったし、その味わい深さは正直少年少女ではなく、大人が観て感じられるものだった。『スタンド・バイ・ミー』も例に漏れず、それぞれ両親との間に問題を抱えた少年たちが死体を探す旅に出て、道中何度も死にかける。その旅の中で、リバー・フェニックスが演じたクリスは癇癪持ちのテディをなだめたり、臆病者のバーンをいじりながらも助けたり、主人公ゴーディの作家の夢を彼の父に代わって応援する。ここでもクリスが母であり父である擬似家族の形態が見て取れるのだ。この作品もそうであるように、子供が主人公の映画なのに、子供向きではない。そんなジュブナイルものの流れをエンタメ志向に向かせたのが、『グーニーズ』だったのだ。

関連記事