演出面では、画面内の映り込みの奥行きが広がり、カメラ位置が変わっている。イクジュンの家の奥の部屋の扉が開かれ、医局や5人がバンドの練習をするソッキョンの家の地下のスタジオは、シーズン1とは異なるアングルで映される。ジュンワンとジョンウォンがシェアするアパートもセットに加わった。キャラクターを深く掘り下げ、同じものを違う角度から映し、シーズン1よりもさらに踏み込んでいく意思表明とも取れる。

　5人の医師たちに加え、彼らのもとで練磨するレジデントにも焦点が当てられる。第1話では、産婦人科レジデントのミナと外科レジデントのギョウルが、先輩医師たちが苦心惨憺の末に口にする「最善を尽くします」の重みと職業倫理を学んでいく。同じ患者、同じ日付、同じレジデントが担当していても、医師が変わるだけでカルテが180度変わることがある。治療を担当するのは患者と家族の人生の一部分を担うことで、医師は最善を目指し懸命に賢明な選択をする。そうだ、これが『賢い医師生活』だったと、会うだけで気分がよくなる友達と再会したような感覚を覚える。

　今週のバンド演奏曲は、「Rain and You（雨とあなた）」。雨の情景に喪失感を重ねるバラードで、子どもを亡くした家族を、そして報われなかった愛に傷ついた心を歌う。

　このシーンに出演する患者役のチャ・チョンファは、『愛の不時着』の北朝鮮マダムとして記憶に残っている人も多いと思う。シーズン1のヨム・ヘラン（『椿の花咲く頃』『悪霊狩猟団：カウンターズ』）に続き、第1話に印象的な配役を投入し、このドラマにおいて数シーンしか登場しない患者役も『賢い医師生活』を築く大切なキャストであることを示す。「雨とあなた」は、2006年の映画『ラジオスター』で使われた楽曲で、オリジナルサウンドトラック用には新進シンガーのイ・ムジンがカバーしている。

　バンドで演奏した後、ソンファとイクジュンは車の中でイ・ムジンのバージョンを聴く。この曲は、シーズン1のラストエピソードで歌われた2003年の映画『ラブストーリー』からの楽曲「Me to You, You to Me（君にとって僕は、僕にとって君は）」のアンサーソングとなり、過去を乗り越える痛みを歌う。離婚の罪悪感に囚われ続けるソッキョンは前妻と向き合い、患者の家族との関係に悩むギョウルに「いつかは忘れないといけないから、その時まで温かい気持ちで接してあげて」とアドバイスするジョンウォン。喪失感との向き合い方は人それぞれ、誰にも強制できるものではない。心に傷を負ったすべての人々へ、『賢い医師生活』のシーズン2はより深いところに手を伸ばそうとしている。ソンファの新車のダッシュボードに貼られたプロテクションシートを剥がす、剥がさないでふたりが攻防するシーンもメタファーになっている。ソンファはイクジュンの告白に三人称で応え、他者が演奏する美しい音楽のように思い出の中に封じ込めることにするが、これはまだ第1話。全24話のドラマだとすると、ようやくターニングポイントを迎えたに過ぎないのだ。

　『賢い医師生活』第2話は、Netflixにて6月24日23時ごろ配信予定。

■平井伊都子
ロサンゼルス在住映画ライター。在ロサンゼルス総領事館にて3年間の任期付外交官を経て、映画業界に復帰。

■配信情報
『賢い医師生活』
Netflixにて配信中
写真はtvN公式サイトより