杉咲花、成田凌の“到達点”をもう一度! 『おちょやん』総集編を楽しむポイントを解説

 『おちょやん』(NHK総合)の最終回から約1カ月。杉咲花がパーソナリティーを務める『杉咲花のFlower TOKYO』(TOKYO FM)に前田旺志郎と成田凌、名倉潤がゲストとして出演したり、名倉がレギュラー出演する『しゃべくり007』(日本テレビ系)に毎田暖乃、東野絢香、松本妃代、小西はるがゲストに出演したりと、オンエアが終わってもキャスト陣の間で関係性が続いている。そんな『おちょやん』熱が冷めやらぬ中、6月19日に放送されるのが前後編にわたる『おちょやん』総集編だ。

 かつて、『エール』が1回目の緊急事態宣言の影響で約2カ月半の間、再放送を行った際、思わぬ反響があったのが物語の再解釈だった。2周目の視聴は新たな角度からの気づきを与えてくれる。物語が始まってすぐに飛び込んでくるのが毎田暖乃が演じる幼少期の千代だ。

 『しゃべくり007』でも話題になっていたように、毎田は『おちょやん』において千代、さらに栗子(宮澤エマ)の孫で千代の姪にあたる春子の1人2役を演じ分けている。同じ朝ドラでは過去に、粟野咲莉もまた『なつぞら』で1人2役を演じているが、毎田の場合は性格も言葉遣いも大きく違っている。

 大阪の南河内の貧しい家に生まれた千代はその早口でどぎつい河内弁が特徴。パワフルかつ感情豊かな演技でダメ親父こと父・テルヲ(トータス松本)を圧倒していく。『おちょやん』にはアドリブ演技も多く、序盤で千代がテルヲを蹴り飛ばすシーンはその一つ。アドリブとして把握しておくと、より毎田の自然な演技がくっきりと浮かび上がってくる。

 第1週のラスト、奉公に出された千代がテルヲに「うちは捨てたもんやない。うちが、あんたらを捨てたんや」と告げるシーンは『おちょやん』を代表する屈指の名場面である。対して、春子は大人しい性格でゆっくりと喋る京都弁。新しい家族として千代に迎え入れられ、看護婦になりたいという夢を決心していく姿は千代が次の代に襷を繋ぐ、『おちょやん』終盤の象徴的なシーンだった。

 毎田から杉咲花へと受け継がれた千代というバトン。杉咲は岡安で奉公として働く10代からラジオドラマ『お父さんはお人好し』で全国のお母ちゃんとして愛され、春子の一人の母として生きていくまでを演じている。舞台女優として劇中劇に焦点を合わせると「正チャンの冒険」に始まり、「手違い噺」、「マットン婆さん」、「若旦那のハイキング」と実年齢に比例して役柄も成熟化。山村千鳥一座の座長・千鳥(若村麻由美)に厳しいレッスンを受けての初舞台「正チャンの冒険」は、今見返すと千代のその下手な芝居がコメディエンヌとしての振り幅を表している。特別公演として鶴亀新喜劇に出演する「お家はんと直どん」は、千代が辿り着いた舞台女優としての最後の姿であるが、絶妙な間合いや緩急のあるセリフ回し、表情に込めた喜怒哀楽は一つの到達点であったように思う。

 さらに忘れられないのが、終戦を知った千代が「人形の家」を一人で演じるシーンだ。「人形の家」は千代が舞台女優を志すきっかけとなった高城百合子(井川遥)が主役を務めていた舞台。かつて、見よう見まねで「人形の家」のセリフを百合子に披露していた千代はユニークな姿として映っていたが、舞台女優として成長した千代が吐き出す「人形の家」には息を呑むすごみがあった。抑えていた感情を爆発させる千代。そこにあるのは怒りや悲しみを超えた言葉にならない思い。千代にとっての芝居とは何か。「お家はんと直どん」に並ぶ、もう一つの女優としての到達点が「人形の家」にはあった。

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