“アニメでゴジラを描く意味”は? 『ゴジラ S.P』の科学的な視点とエンタメのバランス

 また怪獣の質感なども注目したい。キャラクターや背景などは手描き中心に描かれているものの、怪獣たちはCGで描かれていることにより、よりこの世界に突如現れた異物感が強く出ている。この辺りは『BEASTARS』などが大きな話題を呼んだCG制作会社、オレンジの真骨頂と言えるだろう。その映像とともにゴジラファンには懐かしくも胸が熱くなる音楽が合わさることで、より怪獣作品としての魅力を感じる。

 このSFとエンタメ、人間ドラマと怪獣ドラマのバランス感覚は高橋敦史監督らしさも感じさせる。高橋監督は『ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』の監督も務めているが、ドラえもんらしいSF的展開と娯楽性を兼ね備え、その2つが結びついた結末には大きな賞賛の声が上がった。今作でもSF的展開に偏りすぎることなく、ゴジラらしさを追求しながら“アニメでゴジラを描く意味”について考えられている。

 思えば、ゴジラとは難しいコンテンツだ。核と戦争に対する恐怖を描き出した初代ゴジラから始まり、社会的なメッセージを多分に含む作品もあれば、怪獣プロレスと揶揄される怪獣バトルあり、時にはコミカルな姿も披露する。

 では、特撮ではなくゴジラをアニメで描くことの強み、その意味合いとはどこにあるのだろうか? それはコミカルさ、いい意味での軽さにあるのではないだろうか。

 『シン・ゴジラ』はゴジラが今の日本社会に登場したらどうなるのだろうか? というIFの物語を東日本大震災や原発事故と絡めて語り切った社会派作品の側面をもつ。またハリウッド超大作としてゴジラシリーズが制作され、その怪獣バトルの迫力を国内の技術で出し切るのは難しい部分もあるだろう。

 だが、果たしてゴジラは社会派なだけの作品なのだろうか? あるいは、豪華なCGを用いて作られた怪獣バトルだけが魅力なのか? 答えはもちろん、否だ。ゴジラや怪獣たちに立ち向かう人間ドラマ、あるいはSFを駆使した物語、そして時にコミカルな一面を見せてくれるのも、ゴジラシリーズの魅力の1つだろう。

 今作では2話においてジェットジャガーが、まるで『マジンガーZ』に出てくるボスボロットのようなコミカルな戦闘を繰り広げているのが印象に残る。アニメでゴジラを描くに至り、硬くなりすぎないゴジラもまた、令和の時代の新たなゴジラ像としてとても大事なものではないだろうか。

 「昭和ゴジラ史は変化の歴史なんです!」という木根さんの言葉に、1つだけ追記させていただくならば、その歴史は今もまだ続いている。『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』は、長編アニメという媒体の話だけでなく、物語でもゴジラの変化の歴史に挑んでいるのではないではないだろうか。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■放送・配信情報
TVアニメ『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』
TOKYO MX、KBS京都、BS11にて毎週木曜22:30〜放送
サンテレビにて、毎週木曜24:00〜放送
Netflix国内配信中
声の出演:宮本侑芽、石毛翔弥、久野美咲、釘宮理恵、木内太郎、高木渉、竹内絢子、阿座上洋平、浦山迅、小岩井ことり、鈴村健一、幸田夏穂、手塚ヒロミチ、置鮎龍太郎、小野寺瑠奈、三宅健太、磯辺万沙子、志村知幸
監督:高橋敦史
シリーズ構成・脚本:円城塔
キャラクターデザイン原案:加藤和恵
キャラクターデザイン:石野聡
怪獣デザイン:山森英司
音楽:沢田完
CGディレクター:池内隆一、越田祐史、鈴木正史
VFXディレクター:山本健介
軍事考証:小柳啓伍
美術デザイン:平澤晃弘
美術監督:横松紀彦
色彩設計:佐々木梓
撮影監督:若林優
編集:松原理恵
音響監督:若林和弘
エンディングテーマ:「青い」ポルカドットスティングレイ
アニメーション制作:ボンズ×オレンジ
製作:東宝
(c)2020 TOHO CO., LTD.
公式サイト:https://godzilla-sp.jp/
公式twitter:http://twitter.com/godzilla_sp

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