『エヴァンゲリオン』は閉じた作品ではない 観た人を熱狂させる理由を考察

 その碇シンジ=庵野秀明の個人の悩みが多くの人々の心情に響き、まるで観客自身の最大の理解者のような気すらしてくるのが『エヴァンゲリオン』だ。それは『人間失格』を読み、何十年も前に亡くなった太宰治こそが、自分の最大に理解者だと感じてしまう現象とほぼ同じものではないだろうか。

 1997年に発売された、庵野秀明のロングインタビューも載った『庵野秀明スキゾ・エヴァンゲリオン』には、このような言葉がある。

「ありとあらゆる人が見た時に、自分の鏡となって返ってくるような作りとなっている」(P006)

「『エヴァ』の面白いところって、あの作品を見た感想というのが、その人の本質的な部分なんですよ。その人が持っている一番強い部分が『エヴァ』の評価で出てくる」(P117)

 もちろん、シンジの心境に全く理解できない人もいるだろうが、一方で映像表現や物語もエンタメとして一級品だ。特に『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』は、すでに出来上がったテレビシリーズのシナリオを踏襲しながらも、そこから大きく離れることにも成功しており、エンタメとして一級品の面白さを提供している。

 まとめると、『エヴァンゲリオン』シリーズとは作品世界を深く考察させ、エンタメとして単純に楽しく鑑賞することもでき、さらにキャラクターに深く共感することもできるという、映像作品として隙の少ないシリーズとなっている。

 今の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の盛り上がりを見ていると、まるで考察こそがエヴァの真骨頂というような記事や意見が、プロアマ問わずに多く溢れている。それを見てしまうと、設定を何も知らない一見さんであったり、にわかファンには何かを語ることができないような、閉じた印象を受けてしまうかもしれない。

 しかし、先にも述べたようにエヴァとは“作品を語ることが正解”なのだ。その語り口、感じたこと、それが大多数の支持を受けるかどうかは関係なく、その人の正解となっていく。だからこそエヴァを観に行く! と気負うのではなく、庵野秀明という一クリエイターが生み出した一級品のエンタメを観にいくという、気軽な気持ちで作品を鑑賞してほしい。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■公開情報
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
全国公開中
企画・原作・脚本・総監督:庵野秀明
監督:鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏
テーマソング:「One Last Kiss」宇多田ヒカル(ソニー・ミュージックレーベルズ)
声の出演:緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、坂本真綾、三石琴乃、山口由里子、石田彰、立木文彦、清川元夢、関智一、岩永哲哉、岩男潤子、長沢美樹、子安武人、優希比呂、大塚明夫、沢城みゆき、大原さやか、伊瀬茉莉也、勝杏里、山寺宏一、内山昂輝、神木隆之介
音楽:鷺巣詩郎
制作:スタジオカラー
配給:東宝、東映、カラー
上映時間:2時間35分
(c)カラー
公式サイト:http://www.evangelion.co.jp
公式Twitter:https://twitter.com/evangelion_co

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