若手がいない? 森下佳子、宮藤官九郎らベテラン勢の活躍の裏にあるドラマ界の脚本家事情

 チャンスは与えるが消耗が激しいという意味では、新人を積極的に起用するが人気がなければ10週で打ち切りになる少年ジャンプの世界と似ている。だからこそ90年代の月9ドラマは圧倒的な支持を若者から獲得したのだろう。

 こだわりの強い若手作家には耐えられない世界だが、そこで切磋琢磨した経験は貴重な財産となる。坂元裕二は今も現役の脚本家として映画『花束みたいな恋をした』を大ヒットさせているし、野島伸司もドラマ執筆こそ停滞しているが、脚本を担当したアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』が再評価されており、まだまだ書けることを証明した。

ドラマシーン全体に停滞感?

三浦直之脚本『あなたのそばで明日が笑う』(写真提供=NHK)

 むしろ問題は、80~90年代に力を付けたベテラン脚本家の存在が大きすぎて、下の世代が世に出られないことかもしれない。失敗するリスクの大きい不安定な若手と、安定した作品をコンスタントに作るベテランなら、大抵の人間は後者に仕事を任せる。

 それが積み重なることで若手が打席に立つ機会がどんどん減っていき、活躍する機会が失われていく。これはドラマに限らず、高齢化社会となった日本の至るところで起きていることだ。だが、それでもテレビドラマの世界には、若いプロデューサーが何人かいて、若手脚本家が書くドラマを作ろうと奮闘している。

 たとえば、3月6日にNHKで放送された震災10年特集ドラマ『あなたのそばで明日が笑う』は34歳のプロデューサー・北野拓と、33歳の三浦直之(劇団ロロ主宰)の脚本で作られたドラマだ。本作は他の震災を題材にしたドラマとは違う、若い感性が発揮された作品となっていた。

 『書けないッ!?』の最終話でも、ベテラン脚本家がそつなくまとめた台本ではなく、リスクはあるが新人の吉丸の脚本に賭けようとする作り手たちの姿が描かれた。おそらく、同じ危機感を作り手も抱えているのだろう。三浦たちのような若い作り手が連ドラを作る状況になれば、ドラマをめぐる状況も大きく変わるだろうと期待している。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
TBS系にて、 毎週日曜21:00~21:54放送
出演:綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹、吉見一豊、馬場徹、谷恭輔、岸井ゆきの、木場勝己、北村一輝
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
製作著作:TBS
(c)TBS

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