伝説のギャングと重なるジョシュ・トランク監督の苦悩 『カポネ』は狂気に満ちた1本に

 そして私には、本作の痛々しく壊れていくカポネが、トランク監督自身の投影に見えて仕方がなかった。かつての栄光を全て失うが、周りからは酷い扱いを受け、そのせいでドンドンおかしくなっていく。ありったけの力で抵抗するも、事態が悪化するというより、むしろ「またおじいちゃんが困ったことを始めた」と呆れ半分で対応される始末。積極的に自分に声をかけてくるのは、財産を狙う輩ばかり。しかも腫れものを触るような態度で接してくる。そんなカポネを見ていると、監督としての実務を取り上げられた『ファンタスティック・フォー』の現場で、トランク監督はこんな気分だったんじゃないかなと思えてならない。名前と肩書だけはあるが、自由も実権もなく、何もできない。ここにはトランク監督が経験した剥き出しの怒りと不安と孤独がある。そして世界と自分(カポネ)との間にある明確な溝は、決して埋まることはない。こうしたカポネの視点を優先し続けているのが、私小説的な香りがする原因だろう。

 本作は歪な作品だ。しかし、好きか嫌いかでいえば、私はけっこう好きである。本作には、ハリウッドの超大作の現場で傷ついた者の混沌とした記憶と、骨身に染みきった絶望が、タップリと込められているからだ。辛い思いをしたトランク監督本人には気の毒だが、結果的には唯一無二な作品に仕上がった。センスや情熱だけでは辿り着くことのできない、確かな狂気に満ちた1本だ。

■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿しています。最近、会社に居場所がありません。Twitter

■公開情報
『カポネ』
2月26日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
監督・脚本:ジョシュ・トランク
出演:トム・ハーディ、マット・ディロン、カイル・マクラクラン
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
2020年/アメリカ・カナダ/英語/カラー/104分/シネスコ/ドルビーデジタル/原題:Capone
(c)2020 FONZO, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:capone-movie.com

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