“朝ドラ出演芸人”の筆頭？　星田英利、『おちょやん』の新たなスパイスに

　星田の役者としての特徴を考えると、どこか無愛想なイメージがあるからこそ、黙っている時の感情の機微が伝わる役者だと感じる。極端に言えば、萩原健一や勝新太郎が持つような緊張感が、同世代の芸人と役者両方で活躍してきた人たちとの違いであり、星田が今もドラマに起用される理由ではないだろうか。そんな星田と対照的なのが、何を考えているか一見読めない板尾創路だと考える。そんな板尾が『おちょやん 』では無表情でふんどしの早着替えを見せるのだから恐ろしい。

　『おちょやん』で星田が演じる須賀廼家千之助は、竹井千代（杉咲花）が、道頓堀の芝居茶屋・岡安へ奉公に出た際に出会った「天海天海一座」の喜劇役者の1人。一平（成田凌）の父である座長・天海天海（茂山宗彦）とともに喜劇一座を率い、日本でいちばんおもしろいのは自分であるとの自負を持つ。第9週では、映画の大部屋女優として活躍していた千代が、社長の一声で新しい喜劇の一座に参加するために4年ぶりに道頓堀へ帰還。座長に指名された一平の劇団に千之助を参加させるようとするのだが、笑わせたら話を聞くと千代に条件を与え、千代は毎日千之助のところに通って必死に笑わせようとするというのが、今週の展開だ。

　芸に対して熱心だが、客に媚びず、仲間に媚びず、舞台を降りれば酒好きで破天荒、近寄りがたい雰囲気をもった、いわゆる天才型の喜劇役者の千之助。千代と一平にとっては、師匠であり、ライバルであり、トラブルメーカーでもある。ただ、単純に嫌われ役というわけではなく、例えて言うなら、『美味しんぼ』の海原雄山のように、嫌われ役を買ってでも、一平をやる気にさせ、喜劇とは何かということを、亡き親代わりに叩き込む役割を担っているのだろう。千代に対しての課題も、そんな千之助の使命感ゆえなのではないだろうか。毎日通って笑わせるということは、すでにお笑いの修行になっている。千之助が高い壁であるほど2人と劇団は伸びていくのだ。

　ただ星田本人も語っているように（参考：星田英利、『おちょやん』“天才”千之助の役作りを明かす　「僕の目に迷いがあってはダメ」）、後輩を温かく見守るようないわゆる師匠ではなく、喜劇のみに特化した天才ゆえに、後輩指導の仕方が分からず、当たりが強いというのが千之助の面白いところ。堅物で、背中で自身の思いを伝えるキャラクターは、星田はこれまでも『バンビ〜ノ！』（日本テレビ系）で松本潤相手に見せているので本作でも安定した演技をしてくれるに違いない。また、天才役者という設定なだけに、星田が舞台シーンでどこまでの演技を見せるのかも期待が高まる。そして何より最大の敵である、板尾演じる喜劇王・須賀廼家万太郎の劇団とどんな戦いを繰り広げるのだろうか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合：午前8:00～8:15、（再放送）12:45～13:00
BSプレミアム・BS4K：7:30～7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演：杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り：桂吉弥
脚本：八津弘幸
制作統括：櫻井壮一、熊野律時
音楽：サキタハヂメ
演出：椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供＝NHK
公式サイト：https://www.nhk.or.jp/ochoyan/