シンジはまるで浦島太郎のよう? 辛すぎるドラマが続く『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』

 主人公の碇シンジを乗せたまま、神に近い存在へと進化したエヴァンゲリオン初号機が、使徒に取り込まれた綾波レイを救出する場面をもって幕を下ろした『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(以下、『破』)から3年後に公開された『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(以下、『Q』)(2012年)。テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)のリビルド(再構築)として始まった新劇場版シリーズの第3作目にあたる『Q』は、前作『破』から作中時間で14年が経過した設定で始まる。前2作の新劇場版のストーリーが、大まかな部分ではテレビアニメ版の事件や流れをなぞっていたのに対し、『Q』はテレビアニメ版から離れた全くのオリジナル展開となるのが特徴だ。

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 エヴァ初号機ごと永い眠りについていたシンジが目覚めると、彼を取り巻く環境は大きく変わっていた。特務機関ネルフ職員にしてシンジの上司だった葛城ミサトは、ネルフ壊滅を目的とする新組織ヴィレに属し、大佐となっていた。赤木リツコ、伊吹マヤなどネルフに所属していたスタッフもミサトの配下となり、それぞれが険しい表情の人と化している。シンジが『破』の最後に取った行動が引き金となって、ニアサードインパクトという世界規模の壊滅現象を引き起こしたため、危険人物とされたシンジは装着者を任意で死なせることが可能なチョーカーを首に付けられていた。前作『破』が、式波・アスカ・ラングレーの乗るエヴァ弐号機の壮快な活躍と着任を経て、時にコミカルに、時に心温まる場面を織り交ぜて進行しただけに、殺伐とした『Q』序盤の落差ぶりに驚く人も多いだろう。シンジは汚いものでも見るかのような視線と厳しい言葉を次々と浴びせられるのだ。何がどうなっているのか状況が把握できないシンジの心理は、そのまま『Q』を観ている観客の心境とシンクロする。

 シンジが徹底的に可哀想な目にあわされる映画というのが『Q』から受ける印象だ。前作終盤ではレイを救出するために強い信念をもって行動を起こし、ミサトもそれを応援していたにも関わらず、それが原因となって起こった天変地異でシンジを取り巻く人たちの態度は変わってしまった。しかも助け出したと思っていたはずのレイは、確保したエヴァ初号機の中にいなかったとリツコから告げられ、シンジは絶望する。映画中盤でシンジが知らされる母親のこと、レイについてのこと、そして今の世界がどうなっているか、その状況を引き起こしたのが自分だという受け入れがたい真実。シンジの目の前に現れたレイは、かつての綾波レイとは異なる”アヤナミレイ(仮称)”というクローンで、シンジのことを覚えていないばかりか、「好き」という言葉も、その感情も知らなかった。14年ぶりに目覚めたシンジは、さながら海の世界から地上に帰ってきた浦島太郎のようで、ショックを受ける体験が延々と続く。

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