“惚れずにはいられない”佐藤健、全方位型の松下洸平 俳優の活躍を軸に振り返る2020年ドラマ座談会

 新型コロナウイルスの感染拡大による撮影の中止、放送延期という未曾有の事態を乗り越えながら、各局、各配信サービスなどから多種多様なドラマが生まれた2020年。リアルサウンド映画部では、レギュラー執筆陣より、ライターの佐藤結衣氏、SYO氏、Nana Numoto氏を迎えて、そんな過酷な状況下の中、生み出されたドラマを振り返る座談会を開催。

 一時は撮影を中断しながらも、視聴者の元に作品が届けられた『私の家政夫ナギサさん』(TBS系、以下『わたナギ』)、ソーシャルディスタンスドラマ『世界は3で出来ている』(フジテレビ系)、『MIU404』(TBS系)について話し合った前編に続き、後編ではドラマで演じた魅力的なキャラクターで脚光を浴びた俳優たちを軸にドラマを振り返る。(編集部)

節約を新しい幸せのヒントとして描いた『カネ恋』

『おカネの切れ目が恋のはじまり』DVD-BOX

佐藤結衣(以下、佐藤):もうひとつ、今年一番難しかっただろうなっていう『おカネの切れ目が恋のはじまり』(TBS系、以下『カネ恋』)も推したい作品です。お金と恋、現実と夢という一見すると相反するものをテーマとして挑んだ意欲作だと思いました。今まで、「稼ぐぞー! 自己成長だ!」と大量生産大量消費の世の中に疲れてしまった人も、少なからずいたはずで。本当に自分に必要なものは何かを問いかけてくれる時間は、奇しくもこのコロナ禍において必要とされるドラマだったように感じました。その分、物語の本筋とは違う見られ方をしてしまうことが多かったのは、とても悲しかったです。

SYO:「清貧」という言い方をしてましたよね。

佐藤:そう、清貧女子。世が世なら「ケチ」と言われかねない節約っぷりを、ある意味新しい幸せのヒントとして優しく描いていました。三浦春馬さんが演じていた浪費男子も否定されているわけじゃなくて、そういう明るい人がいてもいいよねと伝えていましたよね。お金を持っていて、お金を使うことが悪いことかという対立構造にもなっていない。でも周りに迷惑かけるほど散財していたらダメだよねっていう当たり前のことを教えてくれる作品でした。ちょうどいい温度感だったと思います。

Nana Numoto(以下、Numoto):今はどうしても目を向けられないという言葉も聞こえてきましたが、そういった気持ちもわかります。観るだけで苦しいし、きついなって。みんなの心が癒えた時に、もう一度フラットに観てもらえたらいいかなとも思います。

SYO:『カネ恋』はスピンオフドラマがすごく面白くて、北村匠海くんがひたすら歌い続けるっていうのがParaviにあるんです。これはめちゃくちゃ「俺得」でした(笑)。ちょうど『THE FIRST TAKE』で「猫」が注目されたタイミングでしたね。北村匠海くんが画面に向かってただ歌い続けるだけなんですけど、当たり前なんですがすごく上手い。物語は、これも歌うことで課金してもらうっていうことが描かれていて、ちゃんとお金の話になっていたし。本編ともしっかりリンクされていて、ドラマ本編だけじゃなくてスピンオフも観る楽しみ方も増えてきたかなって思います。リアルタイムで観て、SNSで呟くって楽しみもあるけど、配信で何回も見返したり、あとから派生作品を観るっていう楽しみもできるようになったかな。それとスピンオフ作品は、『わたナギ』、『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)でも、本編では3〜4番手の若手の子たちを主人公にすることで、力を付けさせていく構造になっていますよね。

Numoto:『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』(フジテレビ系)の時も『アンサング・シンデレラ ANOTHER STORY 〜新人薬剤師 相原くるみ〜』(FOD)がありました。加えて、相原くるみちゃん(西野七瀬)は彼女だけのInstagramアカウントがあるんですよ。くるみちゃんが本人のように運用しているアカウントで、同じようにドラマのキャラクターと連動しているSNSが増えましたよね。YouTubeのコンテンツも増えたし。『ハケンの品格』(日本テレビ系)では杉野遥亮くんと中村海人くんがジグソーパズルを作っている動画もありました。サブコンテンツに力を入れ始めたのかなって。

“男女問わず惚れずにはいられない”佐藤健

『恋はつづくよどこまでも』(c)円城寺マキ・小学館/TBS スパークル・TBS

佐藤:俳優本人がSNSやっている場合は、放送に合わせてSNSを投稿されていて、みなさん工夫していてすごいなと。告知を見事なエンタメに昇華させていたのは、『恋はつづくよどこまでも』(TBS系、『恋つづ』)の佐藤健さんだった気がします。

Numoto:佐藤健さんは凄かった。他の役者さんで、あそこまでファンの方との距離の近さを出せる方はいない気がします。直接の接触はないのに近い距離感にいるように思わせる力がすごいですよね。LINEの文面とかも嬉しくなる内容が多いですし、直接話せるアプリ「SUGAR」もやっていて、YouTubeでは俳優仲間を連れてきて独自の企画をやったり、『恋つづ』の流れで上白石萌音ちゃんをゲストに呼んだりとか。今までだったら、一線引いてたところをズカっと入ってきて、心を鷲掴みにして帰っていくみたいなパワーを感じます。

佐藤:佐藤健さんのちょっと俺様なところと俳優としての確かな実力が重なって、ちょうどいいタイミングなのかなって思いました。いっときの人気でちやほやされているのではなく、仕事人として高い評価を受けているのが、男女問わず惚れずにはいられない。『るろうに剣心』シリーズで十分に役者としてのストイックさを見せてくれた先に、『恋つづ』でラブコメならではの顔も見せてくれて、その上SNSでは彼氏のような距離感でメッセージを送ってくる……その振り幅に改めて多くの人がしびれたんじゃないでしょうか。

SYO:アミューズの強さもありますよね。ドライブ企画とか、アミューズのメンバーで揃えるだけですごいことになる。佐藤さんはインタビューでもめちゃくちゃ演技に対して真面目だし、インタビュアーに対しても「お前はどれくらいこの作品と、仕事と向き合っているんだ」って感覚で接してくれる人なので、個人的には昔からすごく好きです。

ーーベテラン俳優にとって、こうしたベタベタなラブコメ作品への出演はどんな思いなんでしょうね。

佐藤:俳優さんとしてはアイドルのように、甘いセリフを言ったり、愛嬌を求められたりするのは、気恥ずかしいところがあるのではないかと、個人的には想像していますが……。

SYO:佐藤健さんレベルになると求められることにきっちりと対応するというか。それこそ『ひとよ』とかダークなものに来てくれる人を増やすということも考えて、やっているんじゃないかな。それでいうと横浜流星くんは上手に、自分にしかできないラブストーリーの方向に引っ張っている感じがありますね。中村倫也くんとかもそうだと思います。

Numoto:俳優さんによっては、顔とか、キュンキュンさせることだけで自分を知ってほしいんじゃなくて、もっと芝居と向き合える作品をやりたいって人もいますよね。アイドルに近いような見方をされることに抵抗がある人もいるのかなって思います。男性が芸能活動していく上で、そこは一つの壁になるのかなって思いました。それをどう打破して、自分の気持ちと折り合いをつけるのか。出演してチャンスにするのか、ポリシーをつらぬいて芝居を磨くのか。どっちがいいというのはないと思いますが、この選択が一つの壁になるのかなと。

SYO:コロナの時期になって、いつも以上にユーザーさんに対して求められるものを返していこうって気持ちが変わったのかなって思っています。これだけ日常がしんどいから、ベタベタなラブコメを観ると、“尊い”ってなって救われることも多いじゃないですか。フィクションとして僕らも楽しむし。

佐藤:前よりベタなラブコメが増えましたよね。恋とかしてる場合じゃないからこそ、恋愛を見たいというか。そのタイミングでそのオファーが来るっていうのを理解して、ベストパフォーマンスを出すっていうのがプロですよね。

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