2020年の年間ベスト企画
年末企画:児玉美月の「2020年 年間ベスト映画TOP10」 “それでもこの世界を信じる”と思わせる力
ライアン・マーフィーのNetflixオリジナル映画『ザ・プロム』は、同性の恋人とプロムに参加しようとするゲイのティーンを描く。観客の心を揺さぶる豪華絢爛なミュージカルシーンは圧巻であり、逆境にある性的マイノリティの姿を、歌と踊りで力強く後押しする。過酷な現実を束の間忘れさせ、夢を見させることこそが映画のプリミティブな魅力であることを踏まえれば、この主題における大胆な作劇はまったく正しい。
深田晃司の『本気のしるし』は、これまでも意識的にジェンダーのステレオタイプを回避しようとしてきた深田の意識が結実したような作品であり、二転三転する物語展開の旨味が長時間の上映時間を疾走させる。ドラマシリーズの再編集版でありながら、2時間でおさめず明らかにハンディを抱え込むことになるこの尺を選んだその志にも敬服する。
『ナチュラルウーマン』を世に送り出したセバスティアン・レリオの映画であるという理由が大きい『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』。この映画で発せられる「女性は男性の姓を名乗り、歴史が消える」という台詞を、選択的夫婦別姓が未だ実現されていないどころか、さらに後退した報道がなされたばかりの今、改めてここに書いておきたい。
『スウィング・キッズ』は、これぞエンターテインメントと言うべき説明不要の映画。中盤のカットバックによるダンスシーンや終盤の粋な反復に、何度でも心奪われる。この作品にこそ、韓国映画の底力を見出したい。
10位というよりも、今年ベストのドキュメンタリー映画枠として選んだのが、サム・フェダーの『トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして』。これまでのトランスジェンダー映画研究の蓄積をしっかりと踏まえつつ当事者の語りを交えながら進められる議論の精度が高い。映画が誰を虐げ、あるいは何を蔑ろにしてきてしまったかを無視すべきでない以上、この映画もまた無視することはできないだろう。
ここに挙げた映画はいずれも、「それでもこの世界を信じる」と思わせる力を秘めている。この先幾度となく世界が一変してしまっても残っていくような、そんな映画を今年はベストとして挙げた。
■児玉美月
映画執筆家。大学院でトランスジェンダー映画の修士論文を執筆。「リアルサウンド」「映画芸術」「キネマ旬報」など、ウェブや雑誌で映画批評活動を行う。Twitter
■公開情報
『燃ゆる女の肖像』
TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほかにて公開中
監督・脚本:セリーヌ・シアマ
出演:アデル・エネル、ノエミ・メルラン
配給:ギャガ
原題:Portrait de la jeune fille en feu/英題:Portrait of a Lady on Fire/2019年/フランス/カラー/ビスタ/5.1ch/デジタル/122分/字幕翻訳:横井和子/PG12
(c)Lilies Films.
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