『姉ちゃんの恋人』は何を描いたのか? 過酷な現実に抗うファンタジーの強度

 奇跡の対義語は日常であり、現実の描き方次第でファンタジーはいかようにも変化する。真人はミーティングでこう話す。「クリスマスって幸せの象徴みたいなとこがあって。もちろんそれでいいんですけど、あまりキラキラばっかりしてると、寂しかったり、つらい思いを持った人は目を背けたくなる」。『姉ちゃんの恋人』は、見過ごされがちな現実の風景や人物の背景に目を向けており、その解像度の高さが奇跡を下支えしている。

 たとえば桃子の同僚の臼井(スミマサノリ)。影が薄すぎて同僚にいじられる臼井には、捨てられた椅子に座って写真を撮るという変わった趣味があった。「ずっと椅子として頑張ってきたわけじゃないですか。よく頑張ったって」。名もなき椅子のような陰の存在をちゃんと描くこと。椅子に限らず、誰かを支え続けてきた人が報われる姿は周囲も幸福にしてくれる。

 両親に代って弟の面倒を見てきた桃子も、誰かを支え続けてきた1人だ。第6話の観覧車のシーンで、真人は交際相手を守るために殴ったこと、事件を公にしたくない恋人のために罪をかぶったことを告白する。真人の告白を聞き、桃子は本当の意味で真人に心を開いたのだと思う。笑顔を絶やさない桃子には、誰にも言えない苦労があったはずだ。大学進学を諦め、おしゃれも控えて、唯一の気晴らしが、幼なじみのみゆき(奈緒)とコンビニの前で缶チューハイを飲みながら話すことという桃子にとって、恋人のために罪を背負う真人の、とてつもない優しさが救いになったに違いない。

 幸福はすぐに壊れてしまいそうな危ういバランスの上で保たれている。『姉ちゃんの恋人』は、そのことも容赦なくえぐり出す。プレゼントを買った帰りにふたたび暴漢に襲われた真人と桃子。「この世界は愛だけで成り立っているわけじゃない」というナレーションで、私たちは残酷な現実に連れ戻される。それでも、だからこそ、願うこと、愛することの尊さが何重にも迫ってくるのだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
『姉ちゃんの恋人』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00~放送
出演:有村架純、林遣都、奈緒、高橋海人(King & Prince)、やついいちろう、日向亘、阿南敦子、那須雄登(美 少年/ジャニーズJr.)、スミマサノリ、井阪郁巳、南出凌嘉、西川瑞、和久井映見、光石研、紺野まひる、小池栄子、藤木直人ほか
脚本:岡田惠和
音楽:眞鍋昭大
主題歌:Mr.Children「Brand new planet」(TOY’S FACTORY)
演出:三宅喜重(カンテレ)、本橋圭太、宝来忠昭
プロデュース:岡光寛子(カンテレ)、白石裕菜(ホリプロ)、平部隆明(ホリプロ)
制作協力:ホリプロ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
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