菊池風磨主演『バベル九朔』で味わうシュールな世界観 万城目学作品はなぜ映像化に向いている?

 前段階で日常に関するリアルな記述を積み重ねておいたからこそ、みなれた雑居ビルが異世界へ変貌する様子に生々しさがもたらされ、臨場感が生じる。

 “バベル”という言葉は、神に近づこうとして天に届くほど高くしようと塔を建てていた人間たちの思いあがりに神が怒り、罰を与えたため崩壊へむかったという『聖書』の「バベルの塔」の神話に由来する。『バベル九朔』では現実での苦労を回避し、夢に逃げこむこと(これもある種の思い上がりだろう)の是非が問われる。それは万城目が、作家デビューを目指していた頃の自身の心のうちをふり返って書いたものでもあるだろう。

 ドラマでは“バベル”にいる人々が異形のものと化す映像がホラー風味だったりするが、小説では周囲の風景が変容し続ける描写など、もっとファンタジー色が強い。なかでも人の挫折した夢を吸収して高くなる“バベル”の塔のイメージは強烈だ。

 ドラマから観た人には、夢を追う人間の愛おしさ、みっともなさという同じテーマを異なるアプローチで掘り下げた原作小説にも、手をのばしてほしいと思う。

※高地優吾の「高」ははしごだかが正式表記。

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『ディストピア・フィクション論』(作品社)、『意味も知
らずにプログレを語るなかれ』(リットーミュージック)、『戦後サブカル年代記』(
青土社)など。

■放送情報
『バベル九朔』
日本テレビにて、毎週月曜深夜24:59〜放送
※Huluでも配信
出演:菊池風磨(Sexy Zone)、高地優吾、池田鉄洋、佐津川愛美、前原滉、アキラ100%、村松利史、上地雄輔ほか
原作:万城目学(角川文庫/KADOKAWA刊)
脚本:田中眞一 吹原幸太
監督:筧昌也、田中健一
音楽:野崎美波
チーフプロデューサー:福士睦
制作プロダクション:ダブ
(c)NTV・J Storm
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/babel/
公式Twitter:@babel_ntv
公式Instagram:@babel_ntv

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