『キング・オブ・メディア』と『ウォッチメン』は裏表の存在? 識者が語り合う2020年の海外ドラマ【前編】

“歴史改変もの”で描かれる今のアメリカ

――『ウォッチメン』に関しては、そのあと新型コロナが流行して、実際にマスク警官が現れたり、黒人に対する暴力事件が多発するなど、ちょっと予言的なところもありましたよね。

『ウォッチメン』

今:最初にアメリカで放送されたのは、去年の10月とかだったかな? ドラマは最初、1921年のタルサ暴動から始まるわけですけど、その時点では「この題材で人種問題をやるんだ?」って思ってしまったんですよね。『ウォッチメン』を、わざわざタルサ暴動から始める必要もないわけで。ただ、その後のアメリカの状況を見ていると、それがいかに予言的で正しかったかっていう……そこは本当にすごいなと思ったし、あとこれはリンデロフがインタビューで言っていたことなんですけど、「政治的にどちらか一方に偏った状態というのは、いいとは思わない」と。このドラマは、リベラル政権が何十年も続いたら世界はどうなるのかといった、“歴史改変もの”の面白さもあるじゃないですか。そこがすごく現代的だなと思ったんですよね。

――そう、“歴史改変もの”というのは、昨今ちょっとしたトレンドになっていますよね。

今:そうですね。今のアメリカの不安な状態を、歴史を振り返ることによってもう一度考え直そうというか。『ウォッチメン』は、そういうところにもリーチしているドラマだと思うし、そういう意味では『プロット・アゲンスト・アメリカ』(HBO)にも通じるところがあると私は思っていて。こちらも、一方が絶対的な悪で、そうでない方は善であるといった単純な図式ではないところに帰結するドラマだったので、そこは『ウォッチメン』と繋がるところがあって、非常に興味深く観ました。

『プロット・アゲンスト・アメリカ』

――“歴史改変もの”の流行については、以前田近さんも記事を書かれていましたね(参考:ハリウッド映画やドラマで“歴史改変もの”増加の理由 3つのトピックと社会的背景から読み解く)。

田近:やはりそのあたりトピックというのは、最近結構増えていますよね。あと、そこで思ったのは……特にアメリカの場合ですけど、大統領の存在が非常に大きいんですよね。いわゆる“歴史改変もの”って、「ケネディが暗殺されなかったら?」とか「史実と違う人が大統領になっていたら?」とか、そういうものが多いと思うんですけど、ひとつの時代を象徴するものとして、やはり大統領がすごく重要であるというか、大統領が変わるだけで、どれだけ国が変わるのかっていう。それは日本にはない感覚で、面白いなと思います。

――確かに、『プロット・アゲンスト・アメリカ』も、「ルーズベルトではなく、反ユダヤ親ナチスのリンドバーグが大統領になったら?」という話で、すごく面白かったですよね。

今:そうなんですよ。ただ、『プロット・アゲンスト・アメリカ』は、今回のエミー賞では撮影賞しかノミネートされてないんですよね。そこが個人的には、今回のエミー賞の若干不満なところではありました。

キャサリン:それを言ったら、今回いちばん謎だったのは、『DEUCE/ポルノ・ストリート in NY』(HBO)ですよね。あのドラマも『プロット・アゲンスト・アメリカ』と同じプロデューサーが関わっていて……私の好みは、完全に『DEUCE』のほうなんですけど、こんなに素晴らしいドラマが、どうしてエミー賞にまったく絡んでこないんだっていう。

『DUCE3/ポルノストリート in NY』

今:そう、デヴィッド・サイモンのプロデュース作品は、私も本当に好きで、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』(HBO)、『ジェネレーション・キル』(HBO)、『トレメ』(HBO)……もう、本当に全部素晴らしいんですけど、一部を除いてはエミー賞にはあまり縁がない感じで。『DEUCE』のシーズン3なんて、もう最高だったじゃないですか。最終回とか号泣ですよ(笑)。賞を獲ることがすべてではないというか、そういう賞を獲らなかった傑作というのは、全然あるわけで……さっき言ったリンデロフの『LEFTOVERS/残された世界』もそうだし、挙げ出したらキリがないですよね。だからと言ってエミー賞自体を否定する気は1ミリもないんですけど、「何でノミネートもされないの?」っていうドラマは、やっぱり毎回ありますよね。

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