没後10年、世界中のクリエイターに影響を与えた今敏監督の功績 未発表作はどう決着する?

 またアジア圏でも、韓国のゾンビパニック映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)を監督したヨン・サンホがアニメ監督出身だったこともあり、来日時のインタビューで好きな映画監督に今監督の名を挙げている。台湾のアニメ映画『幸福路のチー』(2017年)の脚本と監督を兼任したソン・シンインも、幼いころから日本のアニメを観て育ったと語りつつ、主人公の空想と現実、過去が入り混じる『幸福路のチー』について「今監督の影響が強い」と明かしている。

 今監督は46歳という若さで早逝したため、もっともっと新作を観たかったと願うファンは世界中にいることだろう。長編アニメ映画を4作、テレビアニメを1作、世に残したが、4作目の映画『パプリカ』の公開前から構想を練っていた『夢みる機械』という未発表作がある。いや、熱心なファンにはタイトルと作品の存在が知られているので、未発表という言い方は正確ではないかも知れない。だが世に生まれてはいないのだ。がんで他界する直前まで準備を進めていた『夢みる機械』はその後、今監督の作品を制作してきたアニメスタジオ、マッドハウスの丸山正雄が残された絵コンテや資料をもとに作品を完成させるべくプロジェクトを動かしていた。だが2011年に資金面の問題で一時中断し、その後は今監督の唯一無二の才能を誰が引き継げるのか?という考えに至り、プロジェクトの進展は見られていない。『夢みる機械』が現在どういう状況なのか、どう決着がつくのか、マッドハウスからの公式な明言はない。ただ今監督が世に残したアニメーションが、今なお数々のクリエイターと世界中のファンを魅了し続けていることだけは確かなのだ。

■のざわよしのり
ライター/映像パッケージの解説書(ブックレット)執筆やインタビュー記事、洋画ソフトの日本語吹替復刻などに協力。映画全般とアニメを守備範囲に細く低く活動中。

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