『呪術廻戦』の魅力は“死の描写”にあり? TVアニメ放送に向けて注目ポイントを解説

 興味深いのは、虎杖に象徴される死生観が、敵である呪霊の描き方に、色濃く影響を与えているということ。本作には、呪霊たちによって一般人があっけなく死ぬ描写が頻出するが、そこにウェットな感じはない。きちんと“痛み”は描かれるものの、かなり意識的に“軽く”扱われている。ここが極めて上手い。

 これは、1つには呪霊が人間の負の感情から生まれた“人ならざる存在”であることを強調しているともいえよう。つまり、人間と同じ行動規範では動かないし、人間というもの、さらには命に対する感覚もまるで異なる。というかむしろ、人を殺してこその“呪い”だ。呪霊たちは毎度、見ているこちらが絶望するほど簡単に人間を殺すが(しかも1人ひとり丁寧に殺すのではなく、複数人を雑に、まとめて殺す)、彼らにとってはそれが存在意義でもあり、人間的な倫理観の入る隙間がない。しかし、人の死を軽んじる呪霊たちの存在は、虎杖の生き方・信条に対する侮辱でもある。だからこそ、対立構造が生まれるのだ。

 象徴的なのは、虎杖の前に立ちはだかる“特級呪霊”の真人。彼の戦闘スタイルは、人間の魂に触れ、形を変えるというもの。生きている人間を引き伸ばしたり縮めたりして武器にするほか、“改造人間”として使役する。虎杖の目の前で人間がぐにゃりと改造され、あるいは破裂させられるなど、常軌を逸した死闘は、相当強烈だ。本作が“ダーク”ファンタジーであるゆえんでもある。

 つまり、『呪術廻戦』の独自性は、「死の概念」に対して新しさを生み出していることが大きい。かなりの衝撃作であり、邪道ともいえるが、それがゆえに予定調和の展開にならず、読者も常に新鮮な感覚で読み進めることが可能だ。現在、ジャンプ本誌で展開している「渋谷事変」編では、今現在の渋谷の街を舞台に、呪術師と呪霊、さらには人間でありながら呪霊と組んだり、人間を滅ぼそうとする「呪詛師」がぶつかり合う姿が描かれており、渋谷の各所で戦う、というつくりも、実に新しい(しかもグロ描写てんこ盛りだ)。

 『呪術廻戦』は、先に挙げた真人以外の部分でも、苛烈な描写が目を引く。これも、呪霊の恐ろしさを際立たせる効果を発揮しているが、TVアニメ第1話でも、グロテスクなルックの呪霊が多数登場。『エイリアン』のフェイスハガーよろしく、虎杖の先輩の頭に吸いつくシーンはなかなかに強烈で、その後も巨大な虫に人間の手が複数生えたような不気味な呪霊と、後に虎杖の同級生となる呪術師・伏黒恵の死闘が展開する。

 物語展開のダイナミズム、奇抜なキャラクターたち(なぜか先輩がパンダ。ヒロインの狂気ぶりも斬新だ)、セリフの面白さやギャグセンス、ちょっと『HUNTER×HUNTER』的な理詰めのバトルシーンなど、『呪術廻戦』の面白さは無限にある。そしてそのどれもが、王道の少年マンガのセオリーとは異なる、異端性をビンビンに発している。余談だが、虎杖の“タイプの女性”がジェニファー・ローレンス、修行法が映画鑑賞という部分も、これまでの少年マンガからすると異端であり、映画好きとしては嬉しいところ。

 さらにその根底にあるのが、今回ご紹介した「死の描写」の特異性だ。この通念が、本作の骨格として、土台として機能しているからこそ、斬新性が輝き続ける。これからTVアニメを観進める方は、ぜひその部分にもご注目いただきたい。

■SYO
映画やドラマ、アニメを中心としたエンタメ系ライター/編集者。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て、現在に至る。Twitter

■放送・配信情報
『呪術廻戦』
MBS/TBS系“スーパーアニメイズム”枠にて、10月2日(金)スタート 毎週金曜深夜1:25〜放送
Amazon Prime Video、Netflixほかにて、10月2日(金)26:00〜順次配信
声の出演:榎木淳弥、内田雄馬、瀬戸麻沙美、
小松未可子、内山昂輝、関智一、津田健次郎、岩田光央、遠藤綾、黒田崇矢、中村悠一、木村昴、井上麻里奈、赤﨑千夏、麦人、山谷祥生、櫻井孝宏、千葉繁、田中敦子、島崎信長、諏訪部順一
原作:『呪術廻戦』芥見下々(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:朴性厚
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:平松禎史
副監督:梅本唯
美術監督:金廷連
色彩設計:鎌田千賀子
CGIプロデューサー:淡輪雄介
3DCGディレクター:兼田美希、木村謙太郎
撮影監督:伊藤哲平
編集:柳圭介
音楽:堤博明、照井順政、桶狭間ありさ
音響監督:藤田亜紀子
音響制作:dugout
オープニングテーマ:Eve「廻廻奇譚」(TOY'S FACTORY)
エンディングテーマ:ALI「LOST IN PARADISE feat. AKLO」(MASTERSIX FOUNDATION)
アニメーション制作:MAPPA
(c)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
公式サイト:https://www.jujutsukaisen.jp/

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