三宅裕司が語る“舞台”へのかけがえのない想い 「生きてる限りやらなきゃいけない」

三宅裕司にとって“劇団”とは?

ーーYMOとも組んだ企画を行っています(1983年『サーヴィス』)。「誰もが等しく楽しめる笑い」を目指す三宅さんと、80年代当時、トンガッたカルチャーであったYMOの組み合わせが興味深いです。

三宅:音楽をやっている人で笑いが好きな人はたくさんいますよね。YMOとのコラボは高橋幸宏さんがたまたまニッポン放送でやっていたSETのコントのコーナーを聞いて「おもしろいね」と彼がパーソナリティーをやっていた「オールナイトニッポン」に呼んでくれたことがきっかけです。そこからレギュラーになってYMOの散会記念アルバムに笑いの部分で参加することになったんです。笑いとはもともと権力を批判するものでもありました。江戸時代の落語もみんなそうですけれど、庶民が表立って何にも言えない分、権力を批判した噺をみんなで楽しむみたいなところがありますから、笑いをつくる人たちは大体とんがってるんですよね。ただ笑いも今や多様化してきて僕が作る非常に柔らかくて幼稚園の子供とおじいちゃんが一緒に観ても笑えるような大衆的な笑いを好きな人たちもいてくれる訳です。

ーー三宅さんは実はとがった刃を隠して丸くして大衆に届けていらっしゃるんでしょうか。そんなことを聞くのは野暮ですけれど(笑)。

三宅:ええと、僕はたぶんもともと丸い人ですよね、きっと(笑)。わかりやすい笑いとしてはデビューした頃から「萩本欽一さんの創る大衆的な笑いに似ている」というふうに言われていました。

ーーたくさんの人にわかりやすく届けながら長く続けていくことは高度なことでしょうね。

三宅:そうかもしれないですね。奇抜なことをやって「一発屋」と呼ばれてしまう人たちもたくさんいますよね。SETを作ったころに「下ネタとCMネタと客いじりはやりません」という方針を打ち出したんですよ。そしたらお笑いやってる人たちからものすごい批判を浴びましてね。「そんなきれい事言ってるんじゃねえよ。そんなわけねえだろ」などとね。でも僕はそういうことはやりたくなくて、あくまでもスマートな東京の笑いをやりたかったんです。かっこつけなんですよ、きっと。だって振り返ってみるとけっこうCMネタ、下ネタやってますから。(笑)

ーー「東京のスマートな笑い」という立ち位置にいる。

三宅:だから、すごく汚い格好してさんざんバカなことやってガンガン受けをとったあと、楽屋から帰るときはめちゃくちゃいい最高の洋服を着てきれいに髪をセットして二枚目として帰りたいんですよね。舞台上のバカなやつとのギャップをすごい作りたいというかね。昔の喜劇役者ってそうだったんですよね。かっこいいんですよ、素の彼らはとにかくおしゃれで。そういうのに憧れてたんだと思います。今はそういうものはさほど流行らないですけれども、僕はそれをずっとやってるんでしょうね。そのほうが気持ちいいんだと思いますよ。“ミュージカル·アクション·コメディー”もその気持ちの表れですし。軽演劇でとにかく笑いだけのお芝居をやりながら、片一方でジャズのビッグバンドでドラム叩いていることがたまらなく“東京”ですよね。他者(ひと)がどう思おうと自分が自分に酔っていたいんです(笑)。

ーー40年以上劇団を続けていて、三宅さんにとって劇団とはなんですか?

三宅:「自分がやりたい笑いができる場所」ですね。好きな笑いをやってお客様に笑ってもらう快感から抜け出せないまま「来年はもっと感動できるものを、もっとすごいものを」と考えながら41年ですから。僕は2011年60歳になったとき、脊柱管狭窄症で半年休養したんです。3カ月間入院して3カ月間リハビリしました。入院中、「なぜ生かされているのか?」ということを考えたんです。そのとき「東京喜劇、東京の笑いを作るためにおそらく生かされているんだな」という結論に至ったんです。「なぜ」というより「生きてる限りやらなきゃいけない」ということなんでしょうね。「こういうすごいものがあったなあ」と言われるようなものを作っておけば、それがまた次世代にも「あれを作ろう」という指標になるであろうということでしょうね。僕の上の世代には伊東四朗さんをはじめとする浅草時代の東京の喜劇人たちがいて、それを継承するテレビの笑いはもうないわけですから、僕らが舞台でやっていくしかないと思っています。

ーー三宅さんが見てきた「東京の笑い」をずっと守っていくということなんですね。

三宅:昔は『シャボン玉ホリデー』(1961年~1972年/日本テレビ)のような、かっこいい歌とダンスがあってバカバカしいコントがあるようなバラエティー番組があったんですよ。それがかっこよさとバカバカしさの両方をやるテレビ番組がだんだん少なくなってきたんですよね。そうするともうかっこいい歌とダンスにずっこける笑い、その落差の大きさが魅力の「東京の喜劇」は舞台でしかできないという感覚ですよね、今はね。

ーーコロナ禍で生の舞台自体がピンチではありますが、三宅さんの愛する「東京の喜劇」を守り続けていただきたいです。

三宅:エンターテインメントや娯楽は何か大事があったとき最初に「生きるためにはそんなに必要ではない」と思われるものです。いわゆる「不要不急」ですね。でも逆に、今回自粛したことで「ああ、こんなに必要だったんだ」ということが今作を観に来てくれた方にわかってもらえることを期待します。先日ある方が「みんなで観て笑った後に、もしかしたら泣いちゃうかもしれませんね」と言っていました。おそらく「劇場で観る幸せに気づいて涙が出ちゃう」という意味だと思いますが、「ああ、舞台ってこんなに楽しいのか」という公演にしたいですね。

■公演情報
劇団スーパー・エキセントリック・シアター 第58回本公演 
『世界中がフォーリンラブ』
2020年10月9日(金)〜10月25日(日)
公演の詳細はこちら:http://www.set1979.com/perform/第58回本公演「世界中がフォーリンラブ」
SET公式サイト:http://www.set1979.com/

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