『半沢直樹』最後の戦いへ “バンカーズ・ハイ”を更新する倍返しのエッセンス
前作との違いで言えば、戦う相手も、子会社の成果を横取りする副頭取や国政を動かす大物政治家にスケールアップ。比例するように、半沢を支え、ともに戦う仲間も増えた。渡真利や苅田(丸一太)の同期組に加えて、出向先の東京セントラル証券の森山(賀来賢人)やIT企業・スパイラル社長の瀬名(尾上松也)は、半沢の思いを知る腹心の友である。
おもしろいのは、かつての敵が味方の役割を果たしていることで、相変わらず犬猿の仲の大和田は、利害が一致すれば半沢に協力するし、黒崎は遊軍的なポジションで半沢をアシストする。箕部の周辺を嗅ぎまわっていたことで退場となった黒崎が、わずか1週間で復活したり、データマンの福山が情報通の渡真利とコンビを組まされるくだりには、思わず笑ってしまった。
こうしたキャラの入れ食い状態、あるいは少年マンガによくある敵が味方になる全員集合は、観ている側にとってワクワクするものだが、それに輪をかけているのが「時代劇」「歌舞伎化」と評される演出だ。通常よりも多いセリフ量や多用されるアップは前作を踏襲しているが、『生放送!!半沢直樹の恩返し』(TBS系)でも明らかにされたように、今作では俳優陣のアドリブを積極的に採用している。
前作で確立した『半沢直樹』のおもしろさを濃縮し、取り出したエッセンスを各自が渾身のアドリブで表現。それによって、期待値が高まった視聴者ももれなく満足できるような「わかっていても観てしまう」濃厚なドラマが立ち現れる。その際に、人物の特徴をカリカチュアし、際立たせる伝統芸能の本領が発揮される。
以上をまとめると、7年ぶりの『半沢直樹』続編では、演技・演出も倍返しされており、それは視聴者の高い期待値と指数関数的に広がる世界観に答えるため、必然的に要請されたものと言えるだろう。堺雅人のもう一つの代表作にたとえるなら、倍返しは「バンカーズ・ハイ」を更新し続けるところにある。
箕部と中野渡(と大和田)を前に鬼の形相の半沢。筆者にはそれが泣きながら怒っているように見えた。かつてこれだけの義憤の感情をテレビから受け取ったことはなかった。銀行員生命を賭けた半沢最後の戦いを私たちは見届けるのみだ。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/Twitter
■放送情報
日曜劇場『半沢直樹』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:堺雅人、上戸彩、及川光博、片岡愛之助、賀来賢人、今田美桜、池田成志、山崎銀之丞、土田英生、戸次重幸、井上芳雄、南野陽子、古田新太、井川遥、尾上松也、市川猿之助、北大路欣也(特別出演)、香川照之、江口のりこ、筒井道隆、柄本明
演出:福澤克雄、田中健太、松木彩
原作:池井戸潤『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社)、『半沢直樹3 ロスジェネの逆襲』『半沢直樹4 銀翼のイカロス』(講談社文庫)
脚本:丑尾健太郎ほか
プロデューサー:伊與田英徳、川嶋龍太郎、青山貴洋
製作著作:TBS
(c)TBS