タル・ベーラのもとで学んだ小田香監督が語る『サタンタンゴ』の魅力 彼からの影響やその人柄まで

「タル・ベーラの妥協しない映画作りは見習いたい」

『鉱 ARAGANE』

――小田監督が相談したことで心に残っていることは?

小田:『鉱 ARAGANE』の初期段階、炭鉱が気になってちょくちょく行って撮影するようになったころ、自分がこの場所に惹かれていることもわかっていたし、撮影もうまくいっていると思っていました。ただ、これをどうすればいいのかという疑問が、進める中でわいてきた。同時並行で編集もしていたんですけど、どうしても自分の中で意味を見つけたくなってしまう。それで「どうしたらいいのかわからない」と相談したんです。すると、彼は「自分が好きなものを撮っているんでしょ? その好きなものに誠実であったら、おのずと形はみえてくるから、このまま進めなさい」と。そう断言されたんです。そのときは、もう少しこうしたほうがいいんじゃないかとか、具体的なアドバイスがもらえるのかなと思っていたんで、ちょっと拍子抜けしたんですけど、進めていったら、「これは映画にできる」という手応えのようなものがあって、確かに続けなければそうならなかった。あのひと言がなかったら、背中を押されなかった気がして、心に残っています。

――タル・ベーラは小田監督にとってどんな存在ですか?

小田:師弟関係に思われることが多いのですが、自分の中ではちょっと違って。近しい先人というか、先達のような存在。もしくは善き指導者ということでしょうか。実際、彼自身も私たちのことを同志のように見てくれていたところがある。なので、「サー」とかつけようものならすごく怒っていました(笑)。通常の師弟関係とはちょっと違うと思います。尊敬すべき先達ですから、彼が何歳でなにを撮っていたか気になります。『サタンタンゴ』は完成させたのは彼が40歳手前ですけど、35歳ぐらいから取り掛かっている。いま、その年に自分が近づきつつあって、ちょっと焦ります。「自分は同じようなことができるかな」と。実際、私は学校にいたとき、20代でしたけど、35歳ぐらいの人はベーラに「俺は35歳ぐらいのとき、『サタンタンゴ』を撮ってたよ。大変だと思うけど、頑張らないといけない」とよくはっぱをかけられていましたね。

――彼の映画への姿勢で見習いたい点とかありますか?

小田:ベーラのすごいところは、映画産業や映画界にほんとうに絶望しているけど、希望を失っていない。絶望しきって嘆くだけの人がほとんどだけど、それでも自分でやれることをやろうとしている。そこはすごいなと。決してあきらめない。その姿勢は『サタンタンゴ』にも感じられる。お金もなかったろうし、作品も困難の連続だったと思うんです。でも、出来上がった映画は貧相じゃない。手抜きなしでリサーチして時間をかけてリハーサルもやって、フィルムで撮る。どこか端折って簡単に作ろうと思ったらたぶん作れる。でも、わざわざいばらの道とも言えるしんどい方を選んで妥協しないで作ることを選んでいる。だから、画面の隅々まで安っぽいところがない。作品に彼の誇りが映っている。それはベーラの映画への誠実さでもある。彼のあきらめない、妥協しない映画作りは見習いたいと思っています。

――最後に小田監督流の『サタンタンゴ』のBlu-ray での楽しみ方は?

小田:もちろん、何度も観て、まずは新たな発見を楽しみたい。あと、これは正しい楽しみ方か怪しいし邪道かもしれないんですけど、壁に映像を投影してずっとループでかけていたい。そこにあるものとしてずっと再生しておいて、あの音楽が部屋でずっと流れている。視界のどこかにあの映像が入ってきて、あの音楽が流れている。そんなふうに自分の生活の一部として楽しみたいです。

■リリース情報
『サタンタンゴ』
Blu-ray発売中

価格:10,600 円(税別)
仕様:1994年/ハンガリー=ドイツ=スイス/本編約438分+映像特典/2層/モノクロ/MPEG-4 AVC/複製不能/セル専用/16:9[1080p Hi-Def]ヨー ロピアンビスタ(1:1.66)/音声:オリジナル[ハンガリー語] 2.0ch モノラル dts-HD MA/字幕:日本語字幕/3枚組/リージョンA・日本市場向/字幕翻訳:深谷志寿

<特典映像>
日本版劇場予告編(2分)

<封入特典>
解説リーフレット【執筆:秦早穂子(映画評論家)、遠山純生(映画評論家)】

キャスト:ヴィーグ・ミハーイ、ホルヴァート・プチ、デルジ・ヤーノシュ、セーケイ・B・ミクローシュ、ボーク・エリカ、ペーター・ベルリング
監督・脚本:タル・ベーラ
原作・脚本:クラスナホルカイ・ラー スロー
撮影監督:メドヴィジ・ガーボル
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
発売・販売元:TC エンタテインメント
(c)T.T.Filmmuhely Kft.

■公開情報
『セノーテ』
9月19日(土)〜新宿K’s cinemaにてロードショー、全国順次公開
監督・撮影・編集:小田香
エグゼクティブ・プロデューサー:越後谷卓司
プロデューサー:マルタ・エルナイズ・ピダル、ホルヘ・ホルヘ・ ボラド、小田香
現場録音:アウグスト・カスティーリョ・アンコナ
整音:長崎隼人
ナレーション:アラセリ・デル・ロサリオ・チュリム・トゥム、 フォアン・デ・ラ・ロサ・ミンバイ
企画:愛知芸術文化センター、シネ・ヴェンダバル、 フィールドレイン
制作:愛知美術館
配給:スリーピン
日本、メキシコ/2019年/マヤ語、スペイン語/75分/ デジタル/原題:Ts'onot/英題:Cenote

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