『SAO』が描く“人間とAIの関係性” アリシゼーション編は作品テーマを深化させたものに

 さらに本編では、VRマシン「ソウル・トランスレーター」(以下、STL)が新たに登場し、物語のキーとして描かれる。フラクトライトと呼ばれる人間の魂とされる光の集合体に直接アクセスすることができ、人間の感覚や映像情報を出力するため、当人は目の前の世界が現実か虚構かの区別をすることは難しい。この点においてVR機器から脳にデータを送るナーヴギアやアミュスフィアとは決定的に違っている。この技術は同作者原作の『アクセル・ワールド』に登場する量子接続通信端末「ニューロリンカー」と技術的な共通点が指摘されている点も興味深い。

 『SAO』では現実と虚構を等価値として捉えているキリトたちが、現実と虚構を往来するなかで、それぞれの生き方を模索していくというストーリーが描かれてきた。アインクラッド編で出会ったアスナとは現実世界においても変わらない関係性を続けており、ファントム・バレット編ではシノンがキリトと出会い、壮絶な過去を乗り越えていく過程があった。そこではキリトたちが現実と虚構の区別をしていないことを十分に感じさせるものだった。

 前述のようにアリシゼーション編においては、さらに現実と虚構の境界線を曖昧にする。そこで立ち現れるのが、人間とAIの関係である。キリトは「アンダーワールド」で生まれ育ったAI・ユージオとともに「セントラル・カセドラル」を目指す道のりを通して親交を深め、協力してシステム管理者・アドミニストレータを倒すことに成功する。しかしその過程でユージオが命を落としてしまう。苦楽をともにしてきた相棒の死によって自己否定に陥ったキリトは、同時に現実世界で起こったオーシャンタートル襲撃によってフラクトライトに異常をきたして精神崩壊を起こす。

 このことからも、キリトはアンダーワールド住人をAIとは認識しているものの、目の前の存在(ユージオ)を人間ともAIとも区別はしていないことを示している。アインクラッド編では、月夜の黒猫団のメンバーであるサチを亡くしたことで、現在までトラウマを抱えているキリトの葛藤が描写されているが、ここでは仮想世界という舞台は共通するも、その背景には現実世界の人間がプレイヤーとして存在し、仮想世界の死が現実世界の死を意味するという前提があってのことだった。アリシゼーション編ではそれがAIであろうと現実と虚構の区別なく目の前にあるものをリアルとしてきたという意味で『SAO』のこれまでの描かれ方と同じである。

 また、興味深いのは『SAO』第4クールの13話でリーファが、イウムを憎悪していた暗黒界側として敵対していたオーク族の長・リルピリンに対して、「だって貴方、人間でしょ?」とあたかも当然のように言葉を投げかけるシーンだ。アンダーワールドにログインした時点で、リーファはフラクトライトのコピーであることを知っていたとはいえ、人間と同様に接する態度は、未来への共生の可能性を感じさせるものだった。

 一方で、現実世界と仮想世界を等価値に置いている彼らとは違い、菊岡らラース側の人間はAIに対する価値観の相違を露わにしている。ここでAIを人として扱うかどうかという問題提起が視聴者にも問いかけられている。VRMMOプレイヤーのようにAIを人間と同価値の存在として認識するのか、菊岡のようにAIを軍事利用のための兵器と捉えるのか……。AIの技術が発展していくにつれて、次第に現実的に引き起こされうる問題をも示唆していて興味深い。

 このように人間と差異のないボトムアップ型との関係をキリトたちの物語としてフィクション的に描きつつも、「AIに人権はあるのか」という深い問いを私たちへ語りかけてくれる作品でもあるのだ。

 第17話では『オーディナル・スケール』に登場したエイジとユナが、アニメオリジナル展開として登場し集大成を予感させるものとなっていたが、まさしく集大成にふさわしいアリシゼーション編が美麗なアニメーションでどう描かれるのか期待したい。

■川崎龍也
音楽を中心に幅広く執筆しているフリーライター。YouTubeを観ることが日課です。Twitter:@ryuya_s04

■放送情報
『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld 最終章』
TOKYO MX ほかにて毎週土曜日深夜放送中
原作:川原礫(『電撃文庫』刊)
原作イラスト・キャラクターデザイン原案:abec
監督:小野学
プロデュース:EGG FIRM、ストレートエッジ
制作:A-1 Pictures
製作:SAO-A Project
(c)2017 川原礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO-A Project
公式サイト:https://sao-alicization.net
公式Twitter:https://twitter.com/sao_anime 

関連記事