キャスティングはひらめき重視? 新井順子プロデューサーが明かす、『MIU404』の全容
「派手にいこう」で実現したカースタントに“やっちゃった感”
――第1話のカースタントが大きな話題になっていましたが、現場はどのような感じだったのですか?
新井:大変でした。正直、台本の段階では「これどうなるんだろう」って思っていたんです。「カースタント」って書いてあるけど、それ通りに撮れるのかわからないですから。街の人たちの協力も得て道路を封鎖してやらなくちゃいけないし。1話の編集が終わったときには素直に「できたー!」と安心しました。
――あれほど手に汗握るスペクタクルは、最近テレビドラマで見かけないので、度肝を抜かれました。
新井:当然のことながら、時間もかかるし、お金もかかる……。でも、警察のエンターテインメントだから、やる必要があるなと思いました。ラブストーリーとかお仕事ドラマに、あんなカーチェイスは必要ないけど、やっぱり車に乗ってパトロールする機捜ならではが欲しいと思ったときに、カーチェイスが必要だなと。でも時間もお金もかかる(笑)!
――それを捻出するのが、プロデューサーの腕ですか!?
新井:いえ、まだです。まだこれから調整です……やっちゃった感ある(笑)。
――それだけ見たかった画ということでしょうか。
新井:やるからには派手に。「1話は派手にいこう」「1、2話はまずガツンといって、3話からは少し落ち着こう」みたいなことを言ってたんですけど。まったく抑えきれてないっていう(笑)。スタッフに言われてます、「全然落ち着いてないじゃないか」「3、4話だって大変だ」って。「たしかに、ごめん」としか言いようがないですけど。
コロナ禍で、なくなる可能性もあった『MIU404』
――第3話の途中まで撮影が進んでいたところで、収録を止めたとお聞きしました。
新井:そうです。加えて4話も1日分だけ撮っていて、忘れもしない。4話の撮影中に電話がかかってきて「局に至急戻ってくるように」と言われたんです。嫌な予感しかしませんでした。 このままだと放送スタートさせても1、2話でストップしてしまう。それでもスタートするか、それとも延期させるかを決めなくてはならなくなって。私の中で、やっぱり連続ドラマって“毎週金曜日を楽しみにしているという感覚が連続してくるからいいんだ”という思いがあって延期、撮影のストップを決めました。
――誰も経験したことのない事態でしたが、すべて新井さんの判断で?
新井:編成の方と相談して決めました。感染者が多くなっていくのをみんな不安がっていましたし、自粛要請が出る前にうちは撮影を一旦ストップさせました。当初は、2週間ほどで自粛ムードが明けるかと思っていたんですが、なかなかその気配がない。4話の美村里江さん、5話の渡辺大知さんら、ゲストのスケジュールが決まっている。そもそも、主演キャストだってスケジュールがずっとあるわけではない。「どうする?」の毎日でした。
――それらの課題をどうしたんですか?
新井:何ができるかみたいなパターンを何通りも考えました。本数を減らして収まる範囲にするか。いやいや、このままだと6話で最終回になっちゃう、そんなことありえないよ……とか、延々と。さらにキャストの皆さんの予定を伺ってみると、もちろんそれぞれ次のスケジュールが入っているわけで。いよいよこれはやばい、このままだと本当にこのドラマ自体なくなってしまう!?と思いました。そんな中、編成さんが放送日程を調整してくれて、キャスト事務所さんがスケジュールを調整してくれて、当初より数話本数は減りますが、やりたいことはやれる体制ができました。撮影再開した今でも、誰か1人でも感染したらストップせざるを得ない。だから、今できることは、みんなで感染しないよう気をつけること。スタッフキャストが同じ意識を持って作品に向き合うしかないんですよね。
――あの手この手を駆使して、『MIU404』のスタートにこぎつけたんですね。
新井:そうですね。熱量を引っ張るためにSNSをつぶやき続けて、グッズをたくさん作って。でも、新しい情報を出すことがなかなか難しい。なので、楽しみにしてくださった方がイラスト企画で盛り上がってくれたのは、本当に感謝しかないです。いろんな人の力があって、スタートできたと思っています。6月末にスタートが決まったときには、何よりも「出せてよかった」という気持ちでした。煽り運転とか外国人労働問題とか、今起こっていることが描かれているので、これが、2年後とかの放送になるともう「古いね」みたいになっちゃうから、それは避けたかったんです。
――あまりにもタイムリー過ぎるフレーズもありましたね。
新井:本当に。今起こっていることとリンクしているとはいえ、たまたまが重なりすぎてしまって。「あえて脚本に付け加えたんじゃないか」と思われてしまうのは、不本意なんですよね。むしろ、ダイレクトなフレーズを直前になってカットしているくらいなので。それでも、現実と重なってしまう。心が揺られる脚本だからこそ、いろいろと考えが巡ってしまうのもわかるのですが。本当に伝えたいところが伝わらなくなってしまうので、狙っていないところを取りざたされるのは、不本意なんですよね。その点は、すごく注意しながら進めています。