『今日から俺は!!』に老若男女が熱くなった理由 誰もが童心に帰れる“夢の国”感を演出

 福田作品の十八番であるバカバカしいギャグも、本作品中ではなるべく年齢性別を越えて訴求する方向に振られていたと感じる。アクションシーンもシリアスに寄り過ぎず、かといってコントにならないよう、ほどよい塩梅で劇画調にチューニングされていた。「笑い」と「アクション」。映像作品における二大カタルシス要因をしっかりと際立たせ、「好き勝手、大胆にやっているように見えて練られた作劇」で、単なる懐古主義にとどまらない革新性のある作品となっていた。そこに老いも若きも熱くなった。ただし、『金八先生』や『スクール☆ウォーズ』オマージュなどの「昭和小ネタ」に限っては、Over40'sの視聴者へのお楽しみプレゼントだったけれども。

 ここで筆者は「『今日から俺は!!』は浦安の“夢の国”に同じ」説を唱えたい。かっちりと構築された作品世界のなか、スタッフ・キャストが徹頭徹尾のプロフェッショナリズムで観客をもてなす。愛すべきキャラクターたちがその世界の中で瑞々しく生きて、縦横無尽に走り回り、ギャグという名のダンスを舞い、格闘シーンという名のパレードで観るものを引き込む。老若男女が同じ「童心」になって没入できるユニバーサルデザインな世界。こじつけるなら、三橋(賀来賢人)はミッキーマウス、伊藤(伊藤健太郎)はドナルドダッグ、今井(仲野太賀)がグーフィーといったところか。ちょっと強引かもしれない。

 しかし、それくらい登場人物たちの愛らしさ、キャラクターの屹立ぶりが卓抜していた。これは脚本・演出の妙はもとより、言うまでもなく俳優たちのプロ意識の高さあってこそだろう。『今日から俺は!!』は、いま最も勢いと実力のある若き名優たちの見本市的な役割も果たしていたといえる。賀来賢人、伊藤健太郎、清野菜名、橋本環奈、仲野太賀、矢本悠馬、磯村勇斗など、どんな作品でも確かな結果を残してくれる信頼感の強い若手俳優たちによる、全身で振り切った名演を観られることは、ドラマ・映画ファンにとってこのうえない幸福だ。今後間違いなく彼らは令和時代の邦画シーンを背負って立つ存在となっていくだろう。

 『今日から俺は!!』で幅広いファン層を獲得した福田雄一は、もともと『サタデー・ナイト・ライブ』やモンティ・パイソンから強く影響を受けているという。『今日俺』を礎に、もしかしたら今後は、年齢性別のみならず国籍や人種の壁をも超えたユニバーサルデザイン・エンターテインメントが福田組によって生み出される……のかもしれない。

■佐野華英
ライター/編集者/タンブリング・ダイス代表。ドラマ、映画、お笑い、音楽。エンタメにまつわる原稿を書いたり本を編集したりしている。

■公開情報
『今日から俺は!!劇場版』
全国公開中
出演:賀来賢人、伊藤健太郎、清野菜名、橋本環奈、仲野太賀、矢本悠馬、若月佑美、柳楽優弥、山本舞香、泉澤祐希、栄信、柾木玲弥、シソンヌ(じろう・長谷川忍)、猪塚健太、愛原実花、鈴木伸之、磯村勇斗、ムロツヨシ、瀬奈じゅん、佐藤二朗、吉田鋼太郎
原作:『今日から俺は!!』西森博之(小学館『少年サンデーコミックス』刊)
脚本・監督:福田雄一
配給:東宝
(c)西森博之/小学館 (c)2020「今日から俺は!!劇場版」製作委員会
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kyoukaraoreha/

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