高橋一生は“語られない物語”を想像させる俳優だ 『竜の道』放送前に必見ドラマ3作品を振り返る

『凪のお暇』(TBS系)

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 コナリミサト原作、大島里美脚本の昨年放送TBSドラマ『凪のお暇』。黒木華演じる28歳空気読みすぎOL・凪が、仕事と恋とSNSを捨てておんぼろアパートで始める、新しい生活と恋と友情の物語。ここで高橋一生が演じた元彼・我聞慎二も、『おんな城主 直虎』の政次、『カルテット』の家森と同じく、片想いを募らせる男だ。

 彼の場合は、爆発寸前の激しさである。だが、慎二の口から溢れる、素直じゃない上に、理屈っぽく人格を否定する言葉の数々は、家森とは正反対で凪を追い詰め、危うく彼女の心を潰してしまいそうになる。困った曲者である。

 初回で見せた、どうしようもないモラハラ男ぶりと、各回終盤で見せる凪が好きすぎるゆえの号泣シーンの憎めないキュートさとのギャップは強烈だった。やがて、正反対だと思っていた2人が、似た境遇を同じ心境でやり過ごして生きてきたことを理解しあった時、寄り添わず、あくまで距離を置いたまま同じ思いを共有して泣く。それはまるで、彼らがそれぞれに憧れていた「群れからはぐれた一匹のイワシ」のようで、我々現代人の恋物語のあるべき姿のような気がして、かっこよかった。

【参考記事】
『凪のお暇』はなんて悩ましいドラマなんだ! どこまでもすれ違う黒木華と高橋一生

 新潮社発行『波』(2019年3月号)において、村上春樹『騎士団長殺し』(新潮社)について、高橋一生による書評が5ページに渡って掲載されていた。そこには、『騎士団長殺し』を通して、自分自身のこと、自分自身が置かれている状況を模索する彼がいた。『天保十二年のシェイクスピア』の最終公演日、カーテンコールにおいて高橋は「想像力」、及びそれを共有することの重要性を語っているが、この書評における本との向き合い方の愚直なまでの真摯さは、彼自身が誰よりも深く「想像する人」であることを物語っていた。(出典:「天保十二年のシェイクスピア」公式サイト、書評出典:「Book Bang」

 高橋一生という俳優は、いつも我々観客に想像させる。何気ない言葉の裏に秘められた正反対の思いを。語られない物語の存在を。

 坂元裕二作品などのドラマや映画の片隅を生きていた時期から、高橋は「彼は一体どんな人生を生きてきたのだろう」と視聴者・観客に想像させる余白を持っていた。ヒロインを見つめる眼差しに込められた、たじろぐほどの愛情の深さ、真摯さ、優しさ。物事を見つめる時の思慮深い眼差し。零れる涙を隠すために、バイバイをしたままの手でさりげなく目を覆った(『カルテット』4話)高橋一生という俳優の、静かな目の奥にある深淵を覗いてみたいと、観る者は思わずにいられない。

 復讐に燃える男は、一体どんな目でこちらを見つめてくるのだろう。楽しみに待とう。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
『竜の道 二つの顔の復讐者』
カンテレ・フジテレビ系にて、近日スタート予定 毎週火曜21:00〜放送
出演:玉木宏、高橋一生、松本穂香、細田善彦、奈緒、今野浩喜、渡辺邦斗、西郷輝彦(特別出演)、松本まりか、斉藤由貴、遠藤憲一ほか
原作:白川道 『竜の道』 (幻冬舎文庫)
脚本:篠崎絵里子(「崎」は「たつさき」が正式表記)、守口悠介
音楽:村松崇継
プロデュース:米田孝(カンテレ)、水野綾子(共同テレビ)
演出:城宝秀則、岩田和行、紙谷楓、吉田使憲
制作:カンテレ、共同テレビ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/ryu-no-michi/
公式Twitter:https://twitter.com/ryunomichi_ktv

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