野木亜紀子の作品はなぜ今求められる? 『逃げ恥』『アンナチュラル』などから紐解くその真髄

「気づき」と「発見」のある物語

 『MIU404』は、『アンナチュラル』(TBS系)チームの再集結としても話題を呼んだ。『アンナチュラル』とは、架空の不自然死究明研究所「UDIラボ」を舞台にした1話完結のオリジナルドラマだ。

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 主人公のミコトは(石原さとみ)は、日本における解剖率を改善するために勤しむ法医解剖医。生きていくことに強いこだわりを持ち、朝からモリモリと丼ものを平らげる。その信念の影には、過去の一家心中事件があった。さらに、同じ「UDIラボ」には、恋人を殺人事件で失う過去を持つベテラン法医解剖医の中堂系(井浦新)も。ミコトと中堂の「生」への対象的な姿勢が、「不自然死」を通じて描かれる。

 『アンナチュラル』でも、野木の地道な取材力が発揮される。「数年前に日本の死因究明率を上げようと、内閣府主導で専門的な研究機関を作ろうとしたけれども実現には至らなかった、ということを知ったんです。じゃあ、もしもそれが実現していたらどうなるか?みたいな発想で、不自然死究明研究所「UDIラボ」という架空の舞台ができました」とは演出家・塚原あゆ子の言葉(引用:インタビュー 演出/塚原あゆ子|『アンナチュラル』公式サイト)。野木亜紀子によるオリジナル作品の特徴は、まずその設定に「気づき」があることだ。架空の舞台でありながらも現実に立脚した設定。世の中にはそんな側面があったのかという「発見」が、視聴者をグッと引き寄せる。

 私たちは無意識のうちに、見たいものだけを見て生活している。それは、興味のあるものばかりがタイムラインに並ぶ今、さらに加速している印象だ。小さな川の流ればかりを見て、その先に大きな海が広がっていることを見失いかねない。

 グッと視野を広げて、ドラマの題材となるものを見つける野木亜紀子の作品は、ときに「予言」とも囁かれるほど、あとから世の中が追いついてくることさえある。“コロナウイルス“という言葉を聞いて、『アンナチュラル』の第1話を思い出した人も少なくなかったはずだ。

 さらに、『アンナチュラル』では私たちが見落としている「思考の死」をもあぶり出す。あらゆるレッテルを疑問視し、先入観によって殺されてきた様々な想いを、解剖していくのだ。女性への心ない言葉に毅然とした態度を示し、いじめは「殺人」だと言い切るミコトに、私たちが日頃飲み込んできた毒がなんだったのかを気づかせてくれるのだ。

移りゆく“普通“を紡ぐ物語

 『アンナチュラル』以降も、『獣になれない私たち』(日本テレビ系/以下、『けもなれ』)、『フェイクニュース』(NHK総合)と次々にオリジナル作品を発表した野木亜紀子。『けもなれ』では、複雑な家庭環境、ブラックすぎる職場、煮え切らない恋人……と、現代女性が味わっている苦みを作品に込める。また、『フェイクニュース』では、SNSで飛び交う言葉に惑わされず、事件の真相を追い求める女性記者の奮闘を描いた。

 いずれも、ドラマのヒロイン像としては、異色のキャラクターだったかもしれない。現実的で、したたかで、上司や世間から強い言葉を投げかけられても、歯を食いしばって生きている。それは『アンナチュラル』のミコトにも通じるものがある。これまでドラマのヒロインといえば、1匹オオカミのバリキャリ系か、誰からも好かれるゆるふわ系か、大きく2タイプに分かれるのが“普通“だった。

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 だが、そんな求められる“普通“に生きにくさを感じているのが、現代女性の“普通“だったりする。時代と共に“普通“は変わっていく。もちろん、それは性別を問わずに言えること。最新作『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)では、中年男性の“苦”が描かれる。数年前に予備校講師の契約を打ち切られ、今は自称“休職中“の一路(古舘寛治)と、教師の妻と出来のいい娘を持つエターナル無職の二路(滝藤賢一)は、ひょんなことから“レンタルおやじ“を始めることに。

 1時間1000円。すぐに説教じみたことを言いがちなTHE昭和な一路と、二言目には「ハッピー」とテキトーな受け答えでのらりくらりと交わす二路は、それぞれ半人前だとして2人1組で活動することとなる。なじみの喫茶店のさっちゃんや、様々な事業を抱えた依頼者との不器用でコミカルな会話の中に、ハッとするようなやりとりも。

 身近な友達に相談するよりも、見知らぬおやじに話を聞いてほしいという感覚は、新しい時代の“普通“かもしれないという発見。世の中は変わりつつあるけれど、それでも専業主夫や同性愛に対する世間体はまだまだ風当たりが厳しいことも伝わってくる。“普通“が大きく変わっている過渡期であることを、改めて思い知らされる作品だ。

 時代に漂う“苦”を「ドキュメンタリー」のように切り取り、その先にドラマという希望を見せてくれる野木亜紀子作品。コロナウイルスに負けられない今こそ彼女のドラマを見返し、生きることにしぶとくいこうではないか。絶望する暇がないほどに。

■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、近日放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子ほか
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/

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