コロナ禍によって映画はどう変わる? バーチャル映画館はインディペンデント作品の救世主となるか
全米各都市で外出禁止令が発出され、映画興行成績が公表されなくなって2週間が経った。その間にNATO(全米劇場所有者協会)は政府に緊急支援を請願している。3月28日にトランプ大統領が署名した2兆ドル(約220兆円)の大型景気刺激策法案には航空会社や小売業への支援も含まれ、NATOも感謝の意を表した。景気刺激策には給与税の延期、損失繰越控除、従業員維持税額控除、失業保険の延長・拡大最大4ヶ月間(パートタイム従業員を含む)などが含まれているが、映画業界では金銭だけでは解決できないパラダイム・シフトが起きている。
今週末、4月10日から『トロールズ ミュージック★パワー』(日本での公開は10月予定)が北米で劇場公開される。だが、現在全米の映画館は休業中で、人々は外出禁止令の渦中にある。必然的にオンラインで映画を購入し鑑賞することになるのだが、配給のユニバーサル映画がオンライン配信を発表した際に、NATOは厳しい見解を示した。
ジョン・フィシアンNATO会長はハリウッド・リポーター誌に、「配給会社が、劇場が閉鎖されている中ですでに公開中の作品の収益化を図るためにVOD(ビデオ・オン・デマンド配信)化を加速させることは理解している。この4月、5月に公開が予定されていた映画は公開延期を発表している。ただし、ユニバーサル映画(ドリームワークス・アニメーション)が『トロールズ ミュージック★パワー』でとった方策は別の話だ。スタジオが劇場公開モデルをスキップしてホームエンターテインメントに直行した。ユニバーサルは、『トロールズ』が4月10日に劇場公開と同時にVODリリースされることを宣伝し続けている。4月10日に劇場が閉鎖されているのは公然の事実で、彼らは消費者に嘘をついているのだ。劇場主はこのことを決して忘れないだろう。劇場公開モデルを台無しにし、ユニバーサルは公式発表の約20分前まで、『トロールズ』の事業計画を劇場側に伝えていなかったのだから」と述べている。
コロナ禍の影響を受けた劇場公開映画のVOD化は加速しており、ディズニーは『アナと雪の女王2』(2019年)を予定よりも早い3月15日に、また、3月6日に劇場公開されたばかりの『2分の1の魔法』(2020年)を4月3日からディズニー社のサブスクリプションサービス、Disney+で配信している。ユニバーサル映画傘下のFocus Featuresは、今年1月のサンダンス映画祭でプレミア上映され、2月のベルリン映画祭では銀熊賞(審査員賞)を受賞した『Never Rarely Sometimes Always(原題)』を、3月13日の北米公開から3週間後の4月3日からVODリリースした。監督のエリザ・ヒットマンはサンダンス映画祭に出品した短編作品が認められ、初監督作『It Felt Like Love(原題)』(2013年)も同映画祭で上映、Netflixの『13の理由』の2エピソードを監督するなど注目を集めている。中絶が禁止されているペンシルバニア州からニューヨークへ旅する少女たちの物語で、映画祭での評価も公開後の批評家からの評判も良かった。
『Never~』のようなインディペンデント系の作品は、映画祭から劇場公開まで緻密なマーケティング戦略を要する。特にサンダンス映画祭はアカデミー賞のノミネーションが発表された直後に行われるため、翌年の賞レースまで約1年間走り続けなくてはならない。例えば昨年のサンダンスで絶賛された『フェアウェル』は7月に全米で劇場公開になり、批評家や観客の熱い支持を得て、劇場公開から半年後に主演のオークワフィナがゴールデングローブ賞で主演女優賞を受賞、アカデミー賞前夜に行われるインディペンデント・スピリット賞の作品賞を受賞している。大切に育ててきた作品を劇場公開後3週間で配信してしまうのは、劇場主との渉外を行った営業担当者や、公開から継続して話題を提供するよう計画してきたマーケティング担当者にとって、苦渋の選択だったことだろう。それでも配信に駒を進めなくてはいけないほど、映画業界は困窮している。