『デジモンアドベンチャー』とは何だったのか “無限大の夢のあと”に斬り込む最新作に寄せて

“無限大の可能性”を捨て大人になるという現実

 選択という行為は、その他に存在していた沢山の選択肢を捨てることを意味する。私たちは、進学する学校や就職する会社を決め、住む土地も、関わる人も、常に選択を重ねながら大人になっていく。人生が有限である以上、歳を取れば取るほどに、選択肢は勢いよく捨てられていくのだ。子どもの頃に感じていた無限大の可能性、あるいは万能感のようなものは、今となっては懐かしい思い出である。大人になり、沢山のものを得たと同時に、数えきれないものを「捨てざるを得なかった」。

 劇中の太一やヤマトも、まさに選択の岐路に立っている。ふたりが一緒に飲む居酒屋の壁には女性のポスターが貼ってあり、背景となる建物には喫煙所の案内が載る。大学の同級生は就職活動を始め、卒論のテーマに頭を悩ませる。「大人になる」という現実が、望もうが望むまいが、彼らに襲いかかってくるのだ。それはつまり、「選ばなかった選択肢」という名の「可能性」を捨てることに他ならない。

 「なんにでもなれる」「なんでもできる」。眼前に広がる可能性を捨てる時、選ばれし子どもたちはその存在意義を揺るがせるのだろう。幼い頃に冒険を共にしたパートナーデジモンは、「無限大の可能性」の象徴でもあった。グレイモンは、スカルグレイモンとメタルグレイモン、そのどちらに進化するのか。選択肢は、幼い子どもの手の中にあるのだ。

 だからこそ、パートナーデジモンとの別れの危機は、太一たちへのイニシエーション(通過儀礼)として機能する。

 大人になる、つまり「可能性を狭める」のであれば、その象徴であるアグモンたちと別れなければならない。あの頃の万能感をそっくり持ったまま大人になるなんて、そんなことは、哀しいことに許されないのだ。課せられた宿命を前に、太一とヤマトは自分たちだけの答えを見出せるのか。

 そして気づかされるのは、「世代」である私たちのパートナーデジモン(=無限大の可能性)こそが、『デジモンアドベンチャー』という作品そのもの、という構造である。

 1999年。あの頃の私たちの前には、数え切れない選択肢があった。どんな夢を叶えるのか。どんな人生を送るのか。そして、どんな大人になるのか。そういった形のない願望や希望、果てしない万能感が、『デジモンアドベンチャー』という作品を借りて胸に刻まれていったのだ。大人になった今、どうしようもなく同作を神格化してしまうのは、あの頃の可能性に満ちた自分への嫉妬や飢餓感がそうさせるのかもしれない。はたまた、20年越しの「ないものねだり」だろうか。

 それを見透かしたかのように、『LAST EVOLUTION 絆』は、作品そのものが「神格化されたデジモンアドベンチャー」に向き合っていく。

 なぜこの作品が一大ムーブメントを築いたのか。どうして当時の我々をあんなにも熱中させたのか。鑑賞する多くの「世代」の人間が、改めてそう問い直すことだろう。そして訪れる、『デジモンアドベンチャー』との別れ。本作が未知なる可能性をどう描き、答えを提示するのか。沢山の選択肢を捨てて大人になった私たちは、どう生きるべきか。クライマックスの「最後の進化」に込められたメッセージが、ストレートに胸に響く。

 『デジモンアドベンチャー』とは、何だったのか。

 それは、あの頃に覚えた万能感の依り代か。ノスタルジーの煮こごりか。あるいは、私たちの半生とずっと共にあった一種の呪いか。無限大の夢のあとに斬り込む『LAST EVOLUTION 絆』は、同シリーズのファンである人間こそ、見届ける必要があるだろう。

※宮崎歩の「崎」は「たつさき」が正式表記

■結騎了
映画・特撮好きのブロガー。『別冊映画秘宝 特撮秘宝』『週刊はてなブログ』等に寄稿。
ブログ:『ジゴワットレポート』Twitter

■公開情報
『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』
2月21日(金)公開
声の出演:花江夏樹、細谷佳正、三森すずこ、田村睦心、吉田仁美、池田純矢、榎木淳弥、M・A・O、坂本千夏、山口眞弓、重松花鳥、櫻井孝宏、山田きのこ、竹内順子、松本美和、徳光由禾、片山福十郎、ランズベリー・アーサー、朝井彩加、山谷祥生、野田順子、高橋直純、遠近孝一、浦和めぐみ、小野大輔、松岡茉優
原案:本郷あきよし監督:田口智久
脚本:大和屋暁
スーパーバイザー:関弘美
キャラクターデザイン:中鶴勝祥
デジモンキャラクターデザイン:渡辺けんじ
アニメーションキャラクターデザイン:立川聖治、熊谷哲矢、西野理恵、関崎高明
総作画監督:立川聖治
アニメーションプロデューサー:漆山淳
オープニング曲:和田光司
挿入歌:宮崎歩
エンディング曲:AiM
アニメーション制作:ゆめ太カンパニー
製作:東映アニメーション
配給:東映
(c)本郷あきよし・東映アニメーション
公式サイト:http://digimon-adventure.net/
公式Twitter:https://twitter.com/Digi_advntr20th

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