桜庭ななみが選んだ「別れ」のかたち 『スカーレット』“父の死”で浮かび上がる三姉妹の個性

 戸田恵梨香主演のNHK連続テレビ小説『スカーレット』で、視聴者を度々苛立たせ、SNSなどでは「琵琶湖に沈めたれ」とまで言われた父親・川原常治(北村一輝)。その常治が12月25日放送回で亡くなった。

 ヒロイン・喜美子(戸田恵梨香)を家の借金返済のために大阪に働きに行かせ、給料の前借りに来たり、ようやく一人前になってきた頃には嘘をついて里帰りさせたり、いろいろな商売に手を出して失敗しては借金をこしらえたり、お金のために娘の夢を潰してきた父。家族への愛情は深く、困った人を見捨てておけない人の良さはあるが、貧乏なのにお酒はやめなかった父。

 しかし、散々嫌われ続けたダメ父が、いざいなくなってみると、「寂しい」という声が相次いでいる。SNS上には以下のような呟きが多数見られる。

「あんなに琵琶湖に沈めたる! とか言ってたのにいざ居なくなると涙止まらない存在ってお父ちゃんくらいなのでは…」
「あんなにムカついてたジョージなのに!! まんまと脚本に感情を踊らされる自分 お父ちゃん死なないで」
「個人的に過去一で嫌いな父親像だったのにどうしてこんなに涙がボロボロ流れてくるのかわからないくらいだった、なんでなの、なんでなの目を開けて」

 そして、この父の病・老い、死の受け入れ方によって、改めて明確に浮かび上がってきたのが、娘たち三姉妹の個性である。

 特に印象的だったのは、昔から下の子の面倒をよく見て、中学を出てすぐに働きに出て、一生懸命お金を貯めて父の借金の返済にあてるなど、一番強くしっかり者に見えていた喜美子が、最も父の老いや病に向き合えなかったこと。

 照子(大島優子)から常治の病状について聞いた夫・八郎(松下洸平)が、喜美子にそれを伝えると、喜美子は大声で「もう楽しいことやないやん! 悲しいことや! そんなん聞きたないわ! しんどい!」と子どものように叫ぶ。父の体調がどんどん悪くなっていることに本当は気づいていた喜美子だが、父と顔を合わせるといつも通りに大声をあげてふざけたり、悲しい話には耳をふさごうとしたりする。

 日頃は一番しっかり者で気丈に見えていたにもかかわらず、親の老いや病など、悲しい事実に正面から向き合えない喜美子の姿は、真面目で慎重で臆病で繊細な「長子」ならではの姿だった。

 父は亡くなる間際、妻ではなく、なぜか喜美子一人を呼び、頭をポンポンと優しくなでる。これは昔の家の多くがそうだったように、一番上の子を特別に可愛がっていたからということもあるだろうし、今までお金の苦労をさせてきた労いもあるだろう。また、お嬢様育ちでおっとりした頼りない妻を置いて逝くことで、娘に託す意味もあったろう。しかし、おそらく誰より臆病で繊細で子どものままの喜美子を心配してのこともあっただろう。

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