『映画 すみっコぐらし』なぜ異例の大ヒット? “ギャップ”あるストーリー展開とTwitterとの相性の良さ

 本作がここまで広まった理由を考える上でTwitterの盛り上がりは避けることができない。「#すみっコぐらし」などのハッシュタグの他にも、「#逆詐欺映画」などのインパクトの強い言葉がトレンドにランクインしたことによって、より高い注目を集める結果となった。ただし、一部では他作品と比較し言及するツイートが物議をかもすなど、児童向けアニメ映画とは思えぬ現象も起きている。筆者自身も鑑賞後、異様な感想が並ぶ盛り上がりに首を傾げた面もあり、作品とは乖離したTweetに、“ギャップ”を感じてしまった。

 しかし当然ながら多数のTweetは作品を的確に捉えている。こういったTwitterで盛り上がるという点で連想される作品は、2018年9月に公開された『若おかみは小学生!』だ。公開当初はあまり注目を集めることがなかったが、スタジオジブリ出身の高坂希太郎監督のこだわりが詰まった細やかな動きや、可愛らしいキャラクターデザインとギャップのある過酷な物語により多くのファンを獲得し、その結果多くの人に愛される作品となった。このようにTwitterの口コミが興行に影響を与えた例としては、『この世界の片隅に』などもあり、アニメ作品とTwitterの相性の良さが改めて示される形となった。

 本作と『若おかみは小学生!』と『この世界の片隅に』はどれも公開前から高い注目を集めていたアニメ映画とは言い難い。本作の場合は『ターミネーター:ニューフェイト』などの大作に注目が集中しており、『若おかみは小学生!』も初週段階では興行的に厳しく、『この世界の片隅に』も公開規模が大きいとは決して言えない作品だった。だからこそ「自分が見つけたこの名作をオススメしたい!」という思いが強く働いたのではないだろうか? 大規模公開の大作映画では生まれづらい熱量と、インディーズ映画ほど小さくなく、地方でも遠出をすれば見に行けるであろう公開規模という条件が合致した結果の現象と言えるだろう。

 作品評価が高くても映画興行が盛り上がらない作品がある中で、多くの人が自分が好きな映画をオススメすることができるTwitterの口コミ力、拡散力が強く働いた結果のヒットでもある。しかしそれを巻き起こしたのは作品自体の持つ力であることは疑いようがない。子ども向けながらも子どもだましにならず、“ギャップ”がありながらも奇を衒わずに、児童にしっかりと向き合った王道とも言える物語こそが本作が成功した最大の要因だったのではないだろうか。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■公開情報
『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』
現在公開中
ナレーション:井ノ原快彦、本上まなみ
主題歌:原田知世「冬のこもりうた」(Universal Music)
原作:サンエックス
監督:まんきゅう
脚本:角田貴志(ヨーロッパ企画)
美術監督:日野香諸里
アニメーション制作:ファンワークス
配給:アスミック・エース
(c)2019日本すみっコぐらし協会映画部
公式サイト:sumikkogurashi-movie.com
公式Twitter:@sumikko_movie

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