佐藤健×鈴木亮平×松岡茉優×白石和彌監督『ひとよ』座談会 撮影現場の裏側から仕事に対する姿勢まで

松岡「『家族ってそういうものだよね』と思ってもらいたい」

ーー今回の『ひとよ』もそうですが、白石監督の作品では、生きづらさを抱えた人たちの姿が描かれます。日本だけでなく、世界を見渡してみても家族を描いた作品が増えているように感じます。

白石:そうですね。ただ僕は、映画でできることとか、そんなたいそうなことは考えていないんです。ただやろうとしているテーマを掘り下げていったら、描かざるを得なくなっていく。そういうことが蓄積されているんだと思います。日本が世界と違うのは、直接的な紛争や難民問題がないこと。イスラエル映画が世界で強かったりするのは、やっぱりそこに戦争や難民問題があるからだと思うんです。でも、ないから描かないということではなくて、だからこそ普遍的なものに向かっていったりという、テーマの取捨選択があるんですよね。世の中全て地続きなので、そういうことを描いていない日本映画の方が単純に問題だと思います。やっぱり、たとえ娯楽映画でもそういうことを描かざるを得ないのが映画なんですけど、それができていない今の日本映画はどうなんだろうというのは常に考えています。

ーーそれこそ現場で話をしていたというマーベルの作品とかもそうですよね。

白石:人種の問題とかをちゃんと描いているわけですからね。日本も本当はそうあるべきだと思います。「映画は社会を映す鏡」とよく言われますけど、今の日本映画の現状を見ると、そういうことに興味がないことの皮肉とも取れるので、作り手としてはそれを変えていきたいなとは思います。

ーーキャストの皆さんはそういうことを考えたりすることはあるんですか?

松岡:昔、ドラマで引きこもりの女の子の役をした時に、最終話間近になって、一通の手紙が届いたんですよ。「私は学校に行ってないけど、(ドラマを見て)部屋から出てみようと思いました」って書いてあって。どこかで誰かを救いたいと思いながらこの仕事をさせていただいているわけですけど、そういう瞬間って本当に訪れるんだってその時に感激したんです。お医者さんみたいに直接命を救えるわけじゃないけれど、世の中で生きづらい人たちに、もっと生きてみようって思ってもらえるお手伝いがしたいとはずっと思っているんです。今回の『ひとよ』でも、家族に対して複雑な思いがある人に許されてほしいと思いながら撮影していましたし、「家族ってそういうものだよね」と思ってもらいたい。私の周りにもうまく生きられない人はたくさんいるので、そういう思いは常にあります。だから、ちょっとだけでも明日が生きやすくなるような作品に携わっていきたいなと。それは直接的にお芝居とも繋がっている気がします。

鈴木:僕はエンターテインメント、フィクションの世界っていうのは、それだけで心が癒される効果があると思ってるんです。すごく重い話とか傷ついた人たちの話でも、似たような傷を持っている人たちが、自分の苦しみを体現してくれている人を客観的に見ることで、すごく癒されることがあると思うんですよ。だからこそ僕らは、本当に同じ思いまではたどり着けなかったとしても、そこに近づくためになるべく努力はするべきだと思うし、それが好きだから僕もやっているんですけど、結果的に、作品を観てくれる人にもいい影響を与えるんじゃないかなと。僕は監督でもないし、脚本を書くわけでもないので、作品が世界を変えるというような大それたことは思っていないですけど、僕自身はすごくつらい時に映画を観るんです。そこからすごく勇気をもらえることが多いので、それに恥じないパフォーマンスを今後も続けていきたいです。

佐藤:結果として社会に何か影響を与えられるような作品に出られたらいいなと思うのは当然ありますが、僕の今のモチベーションとしては、そういうことをあらかじめ考えることはなくて。自分がやりたいことがあるから、まずはそっちを全力で人生をかけてやった上で、社会にとって必要な、社会に向けてこういう作品を作ろうというフェーズにたどり着けたらいいなと思っています。

(取材・文=宮川翔/写真=服部健太郎)

■公開情報
『ひとよ』
全国公開中
出演:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟(千鳥)、佐々木蔵之介、田中裕子
監督:白石和彌
脚本:高橋泉
原作:桑原裕子『ひとよ』
製作幹事・配給:日活
企画・制作プロダクション:ROBOT
(c)2019「ひとよ」製作委員会
公式サイト:www.hitoyo-movie.jp

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