『彼方のアストラ』は“あの頃”の哀愁を呼び起こす ミステリーを引き立たせるキャラ造形の巧みさ

 この、読者の心情を操作するテクニカルなキャラクター造形は、『彼方のアストラ』にも存分に活かされている。カナタと、アリエスと、ザックやキトリーと。読みながら次第に、彼らと友達になりたい錯覚に陥ってしまう。『SKET DANCE』と同じ高校生の設定も影響してか、『彼方のアストラ』における冒険の日々は、さながら林間学校のようだ。言い争いや喧嘩も起こるが、その分だけ、メンバー間の距離が縮まっていく。青春を生きる彼らにとって、同じ日々を過ごす体験は、こんなにも大きな意味を持つのだ。

 そんな「キャラクター造形」に隙がないからこそ、対する「ミステリー要素」も存分に活きてくる。物語が進行し、メンバー全員の好感度が際限なく上昇していくにつれ、「どうしてこの中に刺客がいるのか」と、思わず嘆いてしまうのだ。誰が犯人だとしても、それを信じたくない。誰かを疑ってしまう自分をつい恥じたくなる。作中のメンバーと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に、読者の心をそういったポイントまで没入させてくる。

 しかし、クライマックスにて、「刺客」の正体は明かされてしまう。

 「ミステリー要素」という意味では、「犯人は誰か」が最大の関心になり得るだろう。しかし、『彼方のアストラ』は違うのだ。もはや関心は「誰か」ではない。「どうして」である。この旅を一緒に過ごしたこの登場人物は、どうして「刺客」なのか。なぜそんな宿命を背負ってしまったのか。友達では、仲間ではないのか。……これほどまでに、良い意味で犯人当てが形骸化していくミステリーも、そうそう無いだろう。誰だって、友達を疑いたくはないのだ。

 アニメ版の『彼方のアストラ』も、「ミステリー要素」と同じくらい、「キャラクター造形」を大切に扱っている。全12回というシリーズ構成において、ともすればミステリー部分を消化するだけで尺を取ってしまい、キャラクターの描き方が弱くなる懸念もあった。しかし、原作のエピソードを巧妙に再構成しながら、アニメ制作スタッフはそのどちらも妥協しない姿勢を見せた。

 そう、本作においては、魅力的な「キャラクター造形」こそが「ミステリー要素」を引き立てるのだ。この両輪があってこその、『彼方のアストラ』である。だから、コメディパートもぎりぎりまで削らず、原作における番外編四コマ漫画のネタも随所に配置していく。生き生きとした彼らを描くことが、この作品の骨格となるのだから。それを何よりもスタッフ陣が熟知している。原作ファンのひとりとして、敬意すら抱くバランス感覚だ。

 本作がエンドマークに近づいていく流れは、林間学校や修学旅行の帰りのバスの中を想起させる。楽しい時間ほどあっという間で、だからこそ、終わって欲しくなくて。しかし、その先の日常には、友達と共に過ごしたこの体験が、確実に活きていくのだ。

 『彼方のアストラ』が持つ独特の哀愁は、誰もが体験した「あの頃」から来ているのかもしれない。

■結騎了
映画・特撮好きのブロガー。『別冊映画秘宝 特撮秘宝』『週刊はてなブログ』等に寄稿。
ブログ:『ジゴワットレポート』Twitter

■放送情報
『彼方のアストラ』最終話
9月18日(水)AT-Xほか放送、配信
声の出演:細谷佳正、水瀬いのり、武内駿輔、黒沢ともよ、木野日菜、松田利冴、内山昂輝、早見沙織、島﨑信長、生天目仁美
原作:篠原健太(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:安藤正臣
シリーズ構成:海法紀光
キャラクターデザイン/メイン総作画監督:黒澤桂子
(c)篠原健太/集英社・彼方のアストラ製作委員会
公式サイト:http://astra-anime.com/

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