劇団ひとりが語る、『べしゃり暮らし』演出で活かされたキャリア 「お笑いって全部詰まってる」

 単行本累計発行部数7,500万部以上の人気漫画家・森田まさのりの同名作品を初映像化したテレビ朝日系土曜ナイトドラマ『べしゃり暮らし』が放送中だ。学校一笑いに貪欲な“学園の爆笑王”上妻圭右(間宮祥太朗)と、高校生ながら元プロの芸人だった転校生・辻本潤(渡辺大知)が、ぶつかり合う中で、漫才コンビ“きそばAT”を組むことになる本作は、お笑いを題材に、若き漫才コンビの成長を追いながら、様々な人間模様を描く。間宮祥太朗と渡辺大知が漫才コンビ役に挑戦し、劇団ひとりが初めて連続ドラマの演出を手がける。

 お笑い芸人としての活躍はもちろん、俳優、小説家、映画監督としても活動する劇団ひとりに、連続ドラマ初演出の難しさや幅広い活動の基礎となった芸人時代の経験、本作の演出を通して学んだことについて話を聞いた。

「笑いをとるためには、パスを受け取ることこそが必要」

ーー『べしゃり暮らし』の演出を手がけるきっかけは?

劇団ひとり(以下、ひとり):もともと海外ドラマが大好きで、ドラマをやってみたいという思いは常にあったんですが、僕がドラマを撮る理由があまりなかったんです。「俺に撮らせたいなんて人はいないだろうな」と考えていたんですが、テレビ朝日の方から本作のお話をいただいて。お笑い芸人を題材にしたものだっていうから、内容としても合点がいったので、ぜひやらせてくださいと引き受けました。

ーー最近、お気に入りの海外ドラマはありますか?

ひとり:O・J・シンプソン事件を題材にした『アメリカン・クライム・ストーリー』はすごくよくできていましたね。あとは『ナルコス』とか。最近は、Netflixとかに多い、実在する人物をモチーフにした作品が好きです。

ーー本作の原作を読んだ時の感想は?

ひとり:漫画やドラマといった作品で扱う芸人像って、浅草の寄席みたいな場所で、蝶ネクタイをつけて……というステレオタイプで描かれることが多いと思っていたんですが、『ベしゃり暮らし』は今の時代のリアルな若手芸人事情を描いている作品で、志の高さを感じました。しかもリアルに描くだけじゃなく、いろんな物語を組み込んでエンターテインメントとしても非常に楽しめる作品だと思いました。

ーーそんな原作をドラマ化するにあたって、自身のオリジナリティーや作家性を新たに加えようとした部分はありましたか?

ひとり:ないです。予算や時間の都合もあるので、全てを忠実には描けないんですけど、原作の良さを引き出すことに専念しました。例えば、お笑いのネタの部分も、最初は全部変えてもいいかなとも考えたんですが、原作ファンからすると原作に書いてあるネタを実際に役者が声を出して演じている姿を見たいはずだと思い、できる範囲で原作通りにしました。ただ、どうしてもドラマ化するにあたって言葉が必要な場面や、時代背景が合っていない部分は変えています。

ーー第1話の終盤では、お笑いのネタを始めから終わりまで放送していました。ドラマの尺
を考えると難しい部分もあったのではないでしょうか?

ひとり:そんなことをわかってくださるなんて本当にありがたいです(笑)。一つの漫才を通して見せることで、初めて観る方にこのドラマの真意を示す必要があったし、二人の出会いも描かなくてはいけなかったので、実質40分という時間に詰め込めるだけ詰め込みました。

ーー劇中でお笑いコンビを組むことになる間宮祥太朗さん・渡辺大知さんには、漫才の演技においてどのようなアドバイスを?

ひとり:楽しんでやってもらうことを第一にしてもらいました。漫画の中でもテーマとして「楽しんでやる」ということがあったし、演技を楽しんでいる時の役者さんはキラキラしていて、ずっと見ていられるんですよね。あと、「目の前にいるお客さんを笑わせることを忘れないでください」とはすごく言っていました。

 このことは役者の方に限らず、2〜3年目の若手芸人にもよく言うことですね。芸人でも、一生懸命練習したネタを稽古通りにやろうとして、目の前のお客さんを笑わせるという意識がなくなってしまうことが結構あるんです。僕もたまに忘れることがあります。番組に出ている時に、いいなと思って事前に楽屋で組み立てていた話をしたいがために、共演者がいいパスをくれたのにそのパスを受けとれなかったりする。笑いをとるためには、そのパスを受け取ることこそが必要なのに。不思議なもので、その「お客さんを笑わせる」意識があるかないかで全然違うんですよ。

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