『偽装不倫』は鐘子が見ている夢物語? 「銀河鉄道の夜」とのつながりから考える最大の謎

 伴野も八神も、あまりに理想化されたイケメンであるため、現実感が希薄だ。しかしこれは確信犯的な演出だろう。

 伴野と飛行機で出会う前に鐘子は伴野の荷物で頭を打ち、たんこぶができる。その後、鐘子の前に“こぶたん”というイマジナリー・フレンドが現れ、彼女と対話するようになる。『東京タラレバ娘』でも使われた漫画的演出だが、ドラマ版では鏡に映ったもうひとりの鐘子が話しかけてくる。

 つまり鐘子は、頭を打って幻覚を見るようになるのだが、伴野が登場して以降、韓流ドラマのような物語が進んでいくことを考えると、このドラマ自体が婚活に疲れた鐘子が見ている夢のように思えてくる。

 そう邪推したくなるのは、宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」が重要なモチーフとして登場するからだろう。

 本作はジョバンニという少年が親友のカンパネルラと共に銀河鉄道に乗って旅をするという幻想的な物語だが、伴野は自分の名前がスペインではジョー・バンノと呼ばれていたと言い、「銀河鉄道の夜」のカンパネルラ(イタリア語で鐘)が名前の由来である鐘子は伴野に対して親近感を抱く。

 偽装とはいえ不倫をしている男女を「銀河鉄道の夜」の少年二人に重ねているところが本作のロマンティックなところだが、「銀河鉄道の夜」では、カンパネルラが途中で死んでいたことが明らかになり、幽霊のような存在だったジョバンニが現実に帰還するという形で幕を閉じる。つまり、銀河鉄道に二人が乗っていた時間は、一種の「夢の世界」として描かれているのだ。

 この設定がそのまま『偽装不倫』の下敷きになっているのは、第4話で伴野が脳腫瘍だとわかることからも明らかだろう。だが、そうだとすると、ジョバン二(伴野丈)とカンパネルラ(鐘子)の役割は逆になるのだが、これはどういうことか?

 また、「銀河鉄道の夜」とのつながりで考えると最大の謎は作者の宮沢賢治と同じ名前の葉子の夫・吉沢賢治の存在だろう。どうにも不穏な空気が漂っている賢治だが、最終的にどのように絡んでくるのか? と謎が膨らむ。

 表向きは軽妙なラブコメとして進む『偽装不倫』だが、細かい仕掛けを見ていると、思った以上に複雑な物語となりそうである。原作漫画が現在連載中であるため、おそらく、ドラマ版オリジナルの終わり方が用意されているかと思うのだが、『偽装不倫』という名の銀河鉄道がどこにたどり着くのか、最後まで見守りたい。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
『偽装不倫』
日本テレビ系にて毎週(水)22時〜放送
原作:東村アキコ
脚本:衛藤凛 
演出:鈴木勇馬、南雲聖一 
出演:杏、宮沢氷魚、瀬戸利樹、MEGUMI、谷原章介、仲間由紀恵ほか
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/gisouhurin/

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