筒井真理子×市川実日子の濃密な関係 『よこがお』は2人の女性の“恋”を描く

 しかし、これは基子の一方的な片想いに過ぎないのか。これほどまでに想われる市子は、基子の秘めた想いに揺らぐことはないのか。市子からリサと名前を変えた彼女は、本当はそこにいない基子のイメージに向かって突如、犬のように吼え、四つんばいで地面を這い走り出すように、奇妙な執着と無意識の模倣を見せ始める。

 まるで自室の窓から市子の姿を目で追うようにいつも見下ろしていた過去の基子のように、ガランとした自室の窓からリサは基子、あるいは基子の恋人である和道(池松壮亮)を見下ろしている。

 また、序盤、リサは口を開け、閉じるという行動を、美容室の鏡に向かって繰り返す。これは以前基子が市子に教えた、疲れた時のリフレッシュ方法なのだということが後にわかる。青色の服を着た基子の姿を遠くに見つけて、猛然と近づく黄色の服を着たリサが、基子を叩こうとしたのに関わらず逆に叩かれ崩れ落ちる時も、リサはパクパクと「口を開ける、閉じる」を繰り返す。そして次のシークエンスで彼女の髪色は突如緑色に変わる。まるで青色の基子を黄色のリサが取り込んで緑色に変わってしまったかのように。

 復讐しようとしているはずのリサは、なぜか基子に執着し、彼女の過去に寄り添い、彼女になろうとしているかのように見える。

 女には、2つの「顔」がある。市子が美術館で、同じ向日葵の絵でも画家によって片や生命力、片や死という両極端な主題を持つことを不思議がるように。見方によって彼女たちの姿はいかようにも変わる。

 「よこがお」というタイトルが表出される時、大方斐紗子演じる老婆が自分の丸みのある腹をさすり、妊娠と出産の話をする。この老婆と妊娠、特に丸い腹のアンバランスさは、彼女の置いた煙草のけむりと「よこがお」の文字で映画の幕が開く重要なシークエンスであるだけに、妙に異様な心地にさせる。そこでもまた、「向日葵」の絵と同じように、一人の女性に死と生両方の匂いを纏わせる。

 彼女たちの執着は、恋なのか、憎しみなのか、あるいは嫉妬なのか。最後の彼女は何を思っていたのか。それはあくまでも、観客それぞれの解釈に委ねられる。だが私は、こんなにも互いになりたいと重なり合おうとするかのような彼女たちの濃密な関係を、羨ましいとさえ思うのである。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■公開情報
『よこがお』
角川シネマ有楽町、テアトル新宿ほか全国公開中
出演:筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、須藤蓮、小川未祐、吹越満
脚本・監督:深田晃司
配給:KADOKAWA
2019/111分/カラー/日本=フランス/5.1ch/ヨーロピアンビスタ
(c)2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS
公式サイト:yokogao-movie.jp

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