宮藤官九郎が『いだてん』に仕掛けたマジック 中村勘九郎らの“走り”を振り返る

 話は大きく変わるが、これまでの『いだてん』では四三や弥彦らはもちろんのこと、孝蔵やシマ、富江といった様々な人物たちの「走る」姿が描かれ続けてきた。そしてその走り方は人によって異なる。

 「足で覚えろ」と師匠から言われ、自分なりに考え、車を引いて走り続ける孝蔵。あるいは富江ら竹早の女学生のように、四三との出会いがきっかけで、身体を存分に動かすことの楽しさを知り、抑圧から解放されていくような走り方もある。あるいは、関東大震災のあとの運動会の子どもたちのように、ただただ無邪気に大地の上を駆け抜けるのだっていい。四三に限らず、登場する人それぞれの走り方が観られたのも、このドラマの良さであった。

 「走る」という運動だけでもまったく違った物語が生まれるのだ。もちろん、『いだてん』には走ること以外にも、テニス、バレー、槍投げ、そして第二部の主役となるであろう水泳といった他の競技も描かれており、そこにはまた別の世界が広がっているのである。

 さて、『いだてん』という作品自体を一つのレースと見るのならば、メインの“選手”は田畑政治たちへと引き継がれたわけであるが、今後どんな物語を見せてくれるのだろうか? これまで『いだてん』を観てきた方も、これから観るという方もみんなが楽しめるドラマがひかえているはずだ。笑いあり、涙ありの『いだてん』ワールド。後半戦は始まったばかりである。

(文=國重駿平)

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか、麻生久美子、桐谷健太、斎藤工、林遣都/森山未來、神木隆之介、夏帆/リリー・フランキー、薬師丸ひろ子、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/

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