ルーカス・ドン監督が語る、賛否両論の『Girl/ガール』に込めた思い 「つながりを感じてほしい」

「批判のおかげで僕は強さを身につけた」

ーーララの身体や表情にフォーカスしたカメラワークも特徴的でした。

ドン:画作りに関しては、脚本を書いている時から2つのことを重要視したんだ。ダンスシーンがたくさんあるこの作品をどのようにアプローチしていくのかを考えた時に、引きの画でダンスや振り付けをちゃんと見せるというやり方もあったんだけど、それよりも、ダンスというものが肉体に対してどのような影響を及ぼすのかを撮りたいと思ったんだ。だってこれはダンスの映画ではなくて、主人公のララと身体の関係についての物語だからね。その結果、ダンスそのものをしっかりと見せるのではなく、キャラクターに寄った撮り方にしたんだ。撮影監督のフランク(ヴァン・デン・エーデン)と、どうやったらよりキャラクターの近くで撮れるのか、ララに寄り添うためには何をしたらいいかをリサーチして、彼自身がダンサーになって撮れないかと考えたんだ。

ーー撮影監督も一緒に踊りながら撮ったんですか?

ドン:そうなんだ。実は、フランクにもコレオグラフィーを付けているよ(笑)。それと、脚本段階から重要視していたもうひとつが、ズームを積極的に使用することだった。ララのモデルとなったノラと話をした時に、彼女が「他の人から見られるたびにパラノイアになってしまう」「真の姿を見透かされてしまっているのではないかという恐怖心があった」と言っていたんだ。そういう何かを見抜こうとする他者の視点が、ズームを使うことによってリアルに表現できると思って、取り入れることにしたんだ。ララを演じたビクトール(・ポルスター)は、自分の感じていることを表情で表すタイプの役者で、この映画の力は彼の表情にかかっているというのもわかっていたから、顔に寄ったカメラワークを選択をしたんだ。

ーー長編初監督作にしてカンヌ映画祭やアカデミー賞で話題になった一方で、トランスジェンダーの役をシスジェンダーの俳優が演じていることで批判もされました。

ドン:そうだね……ここで僕はダーレン・アロノフスキーの言葉を引用するよ(笑)。彼が言っていたのは、作品が完成してしまったら、作り手はもうその作品をどこかに置いていかなければいけないということ。確かに僕はこの作品で良いことも悪いことも経験したけれど、すでに完成して世に出たものだから、自分にとっては僕の元からもう離れてしまった、パブリックドメインみたいなものなんだ。この作品によって経験したマイナスな面は、時に残虐なものであったり、興味深いものでもあったりしたけれど、賛否両論いろんな意見をもらうこと自体が初めてだった。普通、そういうことはキャリアをとおしてゆっくりと経験していくものだと思うけれど、僕は最初の作品で一気にいろんなことを経験してしまった(笑)。でも、そのおかげで僕は強さを身につけたと思う。この経験をとおして思うのは、未だに揺らがずに映画を作りたいという強い気持ちがあること。もちろん観客に作品を届けたいという気持ちがあると同時に、究極的には自分のために映画を作りたい。キャラクターを掘り下げることで、自分をもっと知ることができると思うから、今後も自分のために映画を作っていきたいね。

(取材・文・写真=宮川翔)

■公開情報
『Girl/ガール』
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほかにて公開中
監督・脚本:ルーカス・ドン
出演:ビクトール・ポルスター、アリエ・ワルトアルテ
振付師:シディ・ラルビ・シェルカウイ
配給:クロックワークス、STAR CHANNEL MOVIES
提供:クロックワークス、東北新社、テレビ東京
後援:ベルギー大使館
2018/ベルギー/105分/フランス語・フラマン語/原題:Girl/PG12
(c)Menuet 2018

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