『シンク・オア・スイム イチかバチが俺たちの夢』インタビュー

『シンク・オア・スイム 』監督が語る、シンクロを題材にした理由 「人々が横並びに対等になれる」

「『ロッキー』や『フラッシュダンス』と構図は同じ」


――男たちが右往左往しながら成長していく姿をユーモアをもって描いているところもまた印象的でした。

ルルーシュ:この映画は、スポーツがあってコンペティション(競争)がある。たとえば『ロッキー』や『フラッシュダンス』といった映画と構図は同じです。ある人物が訓練して、挫折をしながら、最後に自身をかけた戦いに挑む。その形式を踏襲しながら、私は登場人物たちがどう変わっていくかを描こうと思いました。

 また、登場人物たちがみなさんの共感を得られればと思いました。彼らが共同で成し遂げるプロジェクト、すなわちシンクロの演技が現実に成功するように観客のみなさんに願ってもらえるようになることを望みました。そう思ってもらうためには、よくある面白いだけのコメディのヴィジョンではダメ。きちんと人間を描かなくてはと思いました。

――確かにひとりひとりのバックグランドがきっちり描かれています。

ルルーシュ:ええ。人間というのは1日の中でもさまざまな感情の流れがあります。幸福な気分で目覚めても、夜には落ち込んでいる。そのように登場する人物の感情の起伏をきちんと描くことを心掛けました。ですから、この映画は前半、各登場人物の日常と孤独を描いています。その人間たちの現状をいいことも悪いことも見てもらおうと思って。

 そのままならない彼らの人生を丁寧に描くことで、後半のシンクロナイズド・スイミングの世界選手権へと旅立つ彼らの喜びや新たな希望を見出す姿がより際立つと思ったのです。

 それぐらい情熱をもって描きましたから、私自身は、この映画に登場する人物すべてが愛しい。また、俳優たちもそれぞれの人物を演じることをとても喜んでくれました。その人物のダメなところや矛盾もひっくるめて愛してくれました。ですから、よくあるコメディ映画とは違う。すばらしい人間のドラマになったと思っています。

――ちなみに誰が一番シンクロの演技がうまかったでしょう?

ルルーシュ:1番うまかったのはギョーム・カネです。彼はもともとスポーツマンですし、競争心も強い。肉体的にもスポーツマンの体型をしている。マチュー・アマルリックもなかなか上手でしたよ。ほかの俳優は全然ダメでした(笑)。

 実は撮影にあたり、フランスのオリンピックシンクロチームの振り付けをしている方にコーチを頼んだんです。まず手始めに俳優たちに泳いでもらったら、それを見た彼女は眼を丸くしていいました(笑)。「これは無理よ」と。でも、私がしつこくお願いして引き受けてもらい、同時に俳優たちも一生懸命練習をしてくれました。そのおかげで、この映画はなんとか完成を迎えました。

 ただ、この特訓は私に思いもしないことをもたらしてくれました。それは、シンクロチームを演じる俳優たちが真の意味で仲間になってくれたことです。多くの時間を共に過ごしたのでしょう。撮影がはじまったときには、俳優たちは映画とまったく同じような仲間になっていました。

――とても良いチームワークで撮影が出来たんですね。

ルルーシュ:あとひとつ感謝しないといけないのは、マチュー・アマルリックです。1番最初に出演依頼を打診したのは彼でした。彼は企画を聞いただけ、脚本を読まないで出演を承諾してくれました。これはフランスにおいてとても重要なことです。なぜなら、マチューが出演するのであれば、ほかの俳優は絶対に断らないからです。マチューの存在があったからこそ、これだけの俳優が集まってくれたと思います。

 あと余談ですけど、シンクロチームのメンバーの一人を演じたバラシンガム・タミルチェルヴァンは、私に嘘をついたんです。キャスティングの際、彼は水泳ができるといいました。でも、実際はかなづち。だから、実は、最初の方のシーンで、彼は浮き輪をつけて撮影しています。その浮き輪を画像処理で消しました。


(取材・文=水上賢治)

■公開情報
『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』
7月12日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかロードショー
監督:ジル・ルルーシュ
脚本・脚⾊:ジル・ルルーシュ、アメッド・アミディ、ジュリアン・ランブロスキーニ
出演:マチュー・アマルリック、ギョーム・カネ、ブノワ・ポールヴールド、ジャン=ユーグ・アングラード
配給:キノフィルムズ/⽊下グループ
2018/フランス/スコープサイズ/122 分/カラー/フランス語/DCP/5.1ch/⽇本語字幕:加藤リツ⼦/原題:Le grand bain/英題:Sink or Swim/PG-12
(c)2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Production

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