尻子玉って何だ? 『セーラームーン』の幾原邦彦が『さらざんまい』で描く、現代の男の子像

 ではストーリーはどうか? 『さらざんまい』も含め、幾原の作品はいつも難解だと言われる。

 思わせぶりな台詞や映像が散りばめられているため、毎回、ネット上には考察記事が多数登場する。しかし重要なのは毎回、パズル的な答え合わせだけで終わらず、謎の向こう側に同時代的な強いメッセージ性が存在することだ。

 例えば2011年に発表された『輪るピングドラム』には「95」と書かれたアイコンが意味ありげに登場し、やがてそれが95年に地下鉄であるカルト団体が起こしたテロのことだったことが明らかにある。劇中では違う団体として描かれているが、言うまでもなくこれは同年にオウム真理教が起こした地下鉄サリン事件の暗喩であり「95年の日本」が、大きなテーマとして描かれた。

 『さらざんまい』も、河童という題材で同時代的なテーマを描こうとしているのだろう。その全貌はまだ見えていないが、「つながり」や「欲望」といキーワードから浮かび上がる世界観はとても現代的で、第一話のAmazon(劇中ではkappazom)の箱の中に一稀たちが人には知られたくない秘密を現すアイテムを入れて、持ち歩いているという導入部は実に見事だった。

 同時に嬉しいのは『さらざんまい』がBL(ボーイズラブ)という枠組みを使って、現代を生きる男の子たちと向き合っているところだ。

 『セーラームーン』シリーズでキャリアを確立した幾原監督は、颯爽と活躍する少女たちを描き続けてきた。だが男たちは、理想化された王子様か、王子様であることに挫折した堕天使として描かれ、少女に捨てられお城に取り残されるか、自己犠牲の果てに忘れ去られるという切ない顛末ばかりだった。

 しかし、本作の主要人物は男ばかり。それぞれが友達以上BL未満の淡い愛情でお互いを支えあっている。無論、彼らもまた愛する人のために献身的に生きようとする意味において、理想化された王子様である。

 ただ、助けたい相手が全員男だというのは新基軸である。王子様がお姫様を救うという物語を、性別の面でキャンセルした時に何が描かれるのか、興味深く見守っている。

 今の時代にふさわしい男の子像を描いてくれたら嬉しく思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『さらざんまい』
フジテレビ“ノイタミナ”にて毎週木曜24:55〜放送中
アニマックスほか各局でも放送
(c)イクニラッパー/シリコマンダーズ

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