『12か月の未来図』監督が語る、多文化時代の教育の重要さ 「自分の過ちに気づくことも“学び”」

 フランス・パリ郊外の学校を舞台にした映画『12か月の未来図』が公開中だ。

 移民、貧困、学力低下というフランスの社会問題を背景に、エリート教師と問題だらけの生徒の交流と成長を、ユーモアを交えて描いた本作。フランスの名門校の教師・フランソワ・フーコー(ドゥニ・ポダリデス)が、ある日突然、パリ郊外の教育困難中学に送り込まれる。移民など様々なルーツを持つ生徒たちの前に戸惑いながらも、教育の力で、劣等感を持った生徒たちに自信を取り戻すきっかけを与えていく。

 監督は、フォトジャーナリストとして世界中を取材した経験を持つオリヴィエ・アヤシュ=ヴィダルで、本作が長編監督デビュー作となる。ヴィダル監督は、制作にあたり2年間実際の中学校に通い、ともに学生生活を送っている。また劇中の生徒たちは、全員その中学校に通っていた実際の子どもたちが演じている。フランスの教育問題や子どもたちとの交流、そして多文化の時代における教育の大切さについて、話を聞いた。

“観察者”として学校に

ーー今作があなたの長編デビュー作品となります。なぜ教育や移民、貧困をテーマに作品を撮ろうとしたのですか?

オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル(以下、ヴィダル):それらのテーマは今のフランスの社会問題としてメディアで日常的に報道されています。僕自身も以前ジャーナリストとして教育を取り上げていて、今度は監督として映画の題材にしたいと思ったんだ。

ーージャーナリストと映画監督では、やはりそのテーマとの向き合い方も違いましたか?

ヴィダル:そうだね、まず表現方法が違う。ジャーナリストはドキュメンタリー的なところがあるから、カメラを回すことが第一の仕事になるけど、映画監督だと自分自身で物語を作り上げて、どういう人物をどう動かしていくかと、一から造形する。映画だから、やっぱり泣かせたり笑わせたり感動させたりしながら、僕が伝えたいテーマをちゃんと伝えようと思ったよ。自分なりの視点とビジョンを持って、教育問題をみんなでシェアしたいと。

ーー生徒役に、役者ではなく実際に中学校に通う子どもたちを選んだわけは?

ヴィダル:2つの理由があって、1つは現実的な問題なんだけど、14歳前後の子役がそれほどいなくて、クラスの人数分を集めるのは難しいんだ。2つ目は、役者としての演技の経験がない子のほうが、真実味があって、生の素材のよさが出て面白いんじゃないかと思った。それに、2年間学校の子どもたちと一緒に過ごして、与えてもらったことがとても多かったから、それをお返ししたいという気持ちもあったよ。もし、違う子どもたちに演じてもらうことになったら、彼らを裏切った感じがしただろうね。

ーー取材で学校に通っていた2年間は、あなたにとってどういう経験でしたか?

ヴィダル:本当にワクワクするような時間だったよ! 僕自身が子どもの頃に戻ったような、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいだったね(笑)。授業に参加して、どんなふうに1つのクラスが機能するのか、その中で生徒たちはどう過ごしているのかが、大人の立場から見えてきた。今だからわかることがたくさんあったね。それに、生徒じゃないから宿題もしなくていいし、「はい、君」って言われる恐怖感に震えなくてよかった(笑)。教師でもないから授業もしなくていいし、本当にのんきに、観察者としてその場にいたよ。

ーー2年というのは非常に長い取材期間だと思います。

ヴィダル:長い時間ではあるけど、学校で脚本を書いたり、制作も同時に進めていったよ。その期間は学校がオフィスみたいで、事務所の中にこもっていてもインスパイアを受けることが少ないしね。学校に身を置くのはすごく理にかなっているし、脚本もスムーズに書くことができたんだ。

ーー取材に時間をかけるというのは、やはりあなたがフォトジャーナリストとして活動していたことが原点になっているんでしょうか?

ヴィダル:その通りです。見知らぬ人たちに働きかけて、写真や動画を撮らせてもらったり話を聞かせてもらうことは自分の中でまったく抵抗がなかったよ。その時から、教育というテーマに興味があって、自分からユネスコに「世界中の学校のルポルタージュの企画があるんだけどどうですか?」と働きかけたりね。その頃は25歳で、アジアを中心にバングラディッシュ、ネパール、タイなど、教育が浸透しない場所で学びの機会を与えようと、子どもたちと一緒に山を登ったりしていたんだ。

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