樹木希林さんの遺作にして世界デビュー作 『Cherry Blossoms and Demons』8月公開

 昨年9月に亡くなった樹木希林さんの世界デビュー作であり、遺作となったドイツ映画『Cherry Blossoms and Demons(英題)』が、8月に全国順次公開されることが決定した。

 ドイツ人監督ドーリス・デリエによる本作の主演を務めるのは、ドイツ人俳優ゴロ・オイ
ラーと、日本人ダンサーの入月絢。酒に溺れ人生を見失ったドイツ人男性カールと、かつて彼の父と親交があった日本人女性ユウが、人生を取り戻すために共に旅をする物語で、樹木さんは、2人が訪れる茅ヶ崎館の女将役を演じている。

 日本パートのロケは、主に神奈川県茅ヶ崎市に実在する「茅ヶ崎館」で行われた。もともとは、「茅ヶ崎館」が1950年代に小津安二郎監督が滞在し脚本を書いた宿であり、近年では是枝裕和監督も執筆のために宿泊する場所だと知ったデリエ監督が、彼女の前作『フクシマ・モナムール』のジャパンプレミア上映後に茅ヶ崎館に宿泊。高齢の女将に、かつて小津監督が滞在した部屋を案内してもらった際に、本作のインスピレーションを得たという。

 樹木さんが茅ヶ崎館を訪れたのは、小津監督の遺作となった『秋刀魚の味』の撮影時に、女優・杉村春子の付き人として現場に参加した時以来のことであり、当時、樹木さんが小津監督と一緒に過ごしたまさにその部屋で、今回の撮影は行われた。本作のラストには、樹木さんが庭を眺めながら「ゴンドラの唄」を歌うシーンがある。この歌は、黒澤明監督の『生きる』に出てくる有名な曲であり、「いのち短し恋せよ乙女朱き唇褪せぬ間に 熱き血潮の冷えぬ間に 明日の月日はないものを」と歌うこのシーンが、9月に亡くなった彼女の女優としての映画への最後の出演シーンとなった。

 愛、喪失、家族、生きることの美しさと残酷さを描いた本作において、この樹木さんの歌は、まるで彼女が私たちに遺してくれた最後のメッセージのようだったと、デリエ監督は語っている。

ドーリス・デリエ監督 コメント

この度、日本での劇場公開が決まったと聞き、心の底から嬉しく思っています。1984年以降、私は日本を30回以上訪れ、日本で 5本の映画を撮影し、一年に一度は日本を訪れないとホームシックになるほど日本を愛しています。本作のような、日独の亡霊の物語を描きたいという思いは、私が長きにわたり幽霊や妖怪、怪談について学んできたことから生まれたものであり、同時に『雨月物語』(53・溝口健二監督)や『修羅』(71・松本俊夫監督)といった日本映画の傑作の影響もあります。主演を務める入月絢は優れたダンサーでありながら演技も素晴らしく、彼女を発見できたことは大きな喜びでした。彼女の説得力に満ちたフレッシュで自然な魅力に、私は常に感動を覚えます。また、私は長年にわたり日本が誇る名女優・樹木希林の演技に魅了されてきました。『歩いても 歩いても』(07)から始まる是枝裕和監督の作品群や、河瀬直美監督の『あん』(15)などの彼女の演技がとても好きです。今回の役に関しては、彼女以外に考えられませんでしたので、彼女が今回の役を受けてくださった時には、深く深く光栄だと思いました。また本作で、最後の演技を見ることは、哀しくもあり、同時にとても美しさに満ちた体験となりました。本作中での樹木希林は、心温かく、オープンで、非常に情に厚い存在であり、それゆえに観客は彼女にぐっと心を掴まれ、強烈な感動を感じるのです。

入月絢 コメント

今夏『Cherry Blossoms and Demons』が日本で公開されるとのお知らせを受け、感謝と喜びの気持ちでいっぱいです。ドーリス監督のその創作的で情熱的な姿勢にはいつも多大な刺激を受けています。彼女の日本へ対する愛情や探究心は、一人の日本人として真摯に感謝するものに値します。そして今作中で忘れる事ができないのは言うまでもなく樹木希林さんの存在です。作中での存在感は勿論ですが、惜しくも遺作となってしまった事実、また日本へ紹介される大きな架け橋となって下さったこと、撮影中私達に残して下さったかけがえの無い体験や時間を思うと、感無量で言葉に詰まります。人への愛情、生きること、死ぬこと。人生という旅を深い深い部分で体験させられる映画です。是非多くの方にご覧頂ければと願っております。

■公開情報
『Cherry Blossoms and Demons(英題)』
8月、TOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次ロードショー
監督:ドーリス・デリエ
出演:ゴロ・オイラー、入月絢、樹木希林
配給:ギャガ
(c)Constantin Film Verleih GmbH/ Mathias Bothor

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