生まれながらにしての俳優・神木隆之介 『フォルトゥナの瞳』で見せる、大人の表情

 今作『フォルトゥナの瞳』で神木が演じる木山慎一郎は、幼い頃に遭った飛行機事故により、“フォルトゥナの瞳”を得てしまった。これは、“死を目前にした者が透けて見える”という不思議な力だ。彼は他人と深く関わることを避け、波風が立たぬよう素朴に振る舞う、寡黙で仕事一筋な若者である。

 そんな彼の前に、運命の人・桐生葵(有村架純)が現れる。この物語は容易に想像できるように、恋人となる葵の“死の運命”が慎一郎には見えてしまい、彼はどのように振る舞うべきか、というものが主題となる。彼はその死を回避しようと努めるが、運命を変えてしまうことには、それなりの代償を支払わなければならない。その代償の行き着く果ては、やはり自身の死である。

 本作は恋愛ものではあるが、ベースにそういった壮大なテーマがあることもあり、終始重苦しい雰囲気が漂っている。神木の得意な、弱腰で、おどけてみせるような若者像は慎一郎には見出だせず、強く根付いていたように思えるこれまでの神木のイメージとは大きく異なっているのだ。しかし寡黙な青年役とあって、セリフは多くはない。とうぜん彼は、視線や仕草といった細部でキャラクターを表現していかなければならないのだ。“死の運命が見える力”とは、多くの者にとって、見たくないもの、また、見なくてもいいものが見えてしまう、というふうにも言い換えられるだろう。望まぬ特殊な力を持って生きる彼の瞳には、若くしてすでに諦念の色が見え、演じる神木の据わった目つきにはブレがない。しかし運命の人との出会いによって、少しずつ明るい方へと変化していくその瞳に惹きつけられる。神木がどこまで自身の「瞳」に意識的であったかは分からないが、“瞳の映画”らしく、慎一郎の心情が、そこには繊細に反映されているのだ。

 今作で神木に対する印象が、がらりと変わった方も多いでのはないだろうか。筆者もその一人である。だが、神木のこういった細やかな表現力の高さが、今作で急に開花したわけではないことは誰もが知るところだ。「もっと色んな表情の神木隆之介が見たい」、私たちがそう声を上げることで、彼が秘めるポテンシャルは、次々と顔を見せてくれるのではないだろうか。4度目の出演となった大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK)でのヤンチャな姿も、漏らさずに見守りたいところである。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。

■公開情報
『フォルトゥナの瞳』
全国公開中
出演:神木隆之介、有村架純、志尊淳、DAIGO、松井愛莉、北村有起哉、斉藤由貴、時任三郎
監督:三木孝浩
原作:百田尚樹『フォルトゥナの瞳』(新潮文庫刊)
脚本:坂口理子
配給:東宝
(c)2019映画「フォルトゥナの瞳」製作委員会
公式サイト:fortuna-movie.com

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