新文芸坐×早稲田松竹×キネカ大森、編成担当が語り合う“名画座”ならではの特集上映の組み方

名画座同士の“作品の取り合い”は?

ーーこの数年、コアな映画ファン以外の方も名画座に足を運ぶようになった印象ですが、実際のところいかがですか。

花俟:確かにそうですね。10年前とは違い、名画座が“サブカル”の中にも食い込んできている部分もあるのかなと。SNSの発展もあり、目的を共有するコミュニティが可視化された結果、ある種のイベントとして名画座に足を運んでくれる若い世代は増えていると思います。

上田:僕が10代の頃(1990年代)は、北野武監督、黒沢清監督、塚本晋也監督をはじめに、諏訪敦彦監督、是枝裕和監督、青山真治監督、河瀬直美監督ら、日本人監督たちが海外の映画祭で高く評価されていた時期でした。映画好きな若者たちが、監督たちの原点となった旧作を観たいと名画座に通い、カルチャーとしての名画座という雰囲気が作られていたような気がします。その世代が社会人となり、今はさらにその下の「シネコン世代」が、また劇場の雰囲気を変えていっているなと感じます。

渋谷:私もまさにシネコン世代にあたるのですが、映画鑑賞=シネコンだったからこそ、ミニシアターや名画座に憧れを持っている部分はあると思います。

花俟:少し前までは、アニメや特撮関連の作品は、好きな人たちだけのものとして、そのコミュニティ内だけのものになっていました。メインストリーム層から、“カッコ悪い”ともみなされてしまうような。でも、今はSNSで同志を見つけて、恥ずかしいことではないと皆が連結して劇場に足を運んでくれているんです。以前はなかなか見ることのなかった若い女性も本当に増えています。

ーーシネコンではデジタル上映が当たり前となった今、フィルム上映を堪能できるのも名画座の醍醐味ですが、映画のデジタル化の影響は?

上田:DCP(デジタルシネマパッケージ/デジタル上映のフォーマット)によって、作業量的にはフィルムのときより楽になっていることは間違いないです。もちろん、デジタルがゆえの故障などもありますが。一方で、旧作全部がDCP化されるわけではないので、まだまだ35mm映写機は必要ですね。

渋谷:名画座はフィルム上映ができないと成立しないところがあります。でも、最近はフィルムをまったく触ったことがないスタッフもどんどん増えています。映写を行うことはもちろん、フィルムの扱い方を次世代にきちんと引き継いでいかないといけないと感じます。それと同時に、フィルムをきちんとした状態で保存していくことも名画座にとって重要な問題です。先日も文芸坐さんで上映した作品を、うちでもかけたいと思って相談したのですが、あまりにもフィルムの劣化が酷すぎてもうかけられないと。目の前に希望の作品があるのに、かけることができない、それが1番悔しいです。

花俟:その作品に関しては、画や音が飛ぶ「コマ飛び」だけではなくて、色が完全に抜け落ちてしまっていました。

ーー豊かな名画座のプログラムのためにも、改めてフィルム保存の方法などは映画界全体が考えなくてはいけない問題ですね。渋谷さんがおっしゃったように、他の名画座でかけていた作品をうちでもかけたい、というのはあると思うのですが、作品の“取り合い”のようなものはあるのでしょうか。

花俟:かつては「先にうちが!」みたいなのもあったんですけど、“取り合い”からは今は降りました。仮に同じ作品だったとしても、組み合わせるほかの作品や、上映する時期によってまた違った色合いになるものなので。いち映画ファンとしても、少ない名画座で同じ作品ばかりかかっていたら面白くない。「お目当てじゃない作品が掘り出し物だった」というのは名画座の醍醐味だと思いますし、その選択肢が多ければ多いほどいいなと。まあ、それを商売として成立させるのが難しいのですが(笑)。

渋谷:勉強になります。私は新文芸坐さんや早稲田松竹のプログラムをみて、いつも憧れているので、「キネカもこんなことやっているんだ」と思ってもらえるように頑張りたいと思います。

花俟:いや、もう思ってますよ。昨年12月の『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』 『映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の2本立ては、子供も大人も客層の中心にいるキネカさんならではの企画だと思いました。

渋谷:たくさんのお客様にお越しいただき、2018年のキネカ大森名画座で一番の成績をあげられることができました。まるちゃん、しんちゃんと一緒に年を重ねた大人に向けて考えた組み合わせでしたが、お子様連れのお客様もたくさん来てくれて嬉しかったです。

花俟:僕たちがこの劇場はこんな2本立てをやるだろうな、と予想するように、映画ファンの皆さんは、Twitterで「新文芸坐はこの2本立てをやるべき」とかガンガン言ってくるよね。

一同:(笑)。

渋谷:そういった意見は参考にされているんですか。

花俟:オールナイトも含めて番組数が圧倒的に多いので、パクらせていただく気満々です(笑)。ただ、権利問題などの実情はご存知ないから、みんな無茶な要求ばかりで(笑)。

上田:以前、音楽ドキュメンタリー映画ということで、『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』と『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』の2本立てを上映しました。非常に沢山のお客さんが来てくれたんですが、中には「なんで、この2本を一緒にしたんだ!」とおっしゃる方もいらっしゃって……。音楽映画を観たい方には喜んでいただけても、それぞれのアーティストのファンの方にとっては一緒にされたくないわけです。足を運んでくれる方全員に納得してもらうのはなかなか難しいなといつも感じています。

花俟:僕もしょっちゅう文句言われているよ(笑)。本音としては、早稲田松竹さんで組んでいるような作家性やテーマなどで切り取ったものがやりたいのですが、同じ試みをしたらもったいない。それならばと意外な2本を組み合わせることを念頭に入れています。会心だったのは、『ダンケルク』と『新感染 ファイナル・エクスプレス』の2本立て。最初は「全然合っていない!」と非難轟々だったんですが、『ダンケルク』目的で足を運んでくれた方が、「初めて韓国映画を観たけど面白かった」と言ってくれて。おこがましいけど、こういった試みで少しでも映画の土壌が広がればいいなと思っています。それでも非難されると傷つくんですが……(苦笑)。

上田:なかなか狙い通りにはいかないんですよね。『あさがくるまえに』と『グッド・タイム』という、これから期待の若手作家の2本立て、さらにレオス・カラックスの『ポーラX』をレイトショーに付けて、「この格好いい作品たちを観て!」という思いだったのですが、お客さんは全然入らなくて……。自分で会心のプログラムが組めたと思っても、当たらないことも多いですし、新しい作家たちを紹介するのは改めて難しいなと感じます。

渋谷:常に会心のプログラムを繰り出しているように見えるおふたりにも、いろんな悩みがあるんですね。

上田:先程渋谷さんもおっしゃっていましたが、僕も最初はプログラムを決めるのが怖い時期がありました。僕らよりも映画を観ていて、知っている方はたくさんいるわけです。そんな方たちに対して、若輩者の自分がこの映画を観てください、と主張していいのかと。でも、みんな僕の考えた組み合わせを観に来ているのではなく、そこで上映される「映画」を観に来ているのだと思ったら、そんなに難しく考えすぎなくてもいいと思ったんです。名画座として、早稲田松竹として、やらなきゃいけないこと、やってはいけないことさえしっかり分かっていれば。渋谷さんが考えた『ちびまる子ちゃん』と『クレヨンしんちゃん』の2本立ては、うちでやっても大当たりにはなかなかならないと思いますし、ゾンビ映画のオールナイトをやるなら新文芸坐さんで観たいと思う方がほとんどだと思います。私が最近気になっている諺に「壊れていないものを直すな」というのがあるのですが、短期的に当たりのプログラムがなかったとしても不安になって焦らずに、各劇場に求められているもの、それを大事にさえしていれば、全体で見れば劇場のカラーを作っていくことになるのではないかなと思います。

(取材・文=石井達也)

■劇場情報
「新文芸坐」
東京都豊島区東池袋1-43-5 マルハン池袋ビル3F
池袋駅東口徒歩3分
公式サイト:http://www.shin-bungeiza.com/

「早稲田松竹」
東京都新宿区高田馬場1-5-16
高田馬場駅早稲田口徒歩5分/早稲田駅2番出口徒歩5分
公式サイト:http://wasedashochiku.co.jp/

「キネカ大森」
東京都品川区南大井 6-27-25 西友大森店 5F
大森駅東口徒歩3分
公式サイト:https://ttcg.jp/cineka_omori/

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